早河シリーズ完結編【魔術師】
東京の府中刑務所では山内慎也《スパイダー》が黙々とパソコンをタイピングしている。彼が注文したコーヒーは既に二杯目だ。
『そうやって、ずっと見られているのも落ち着きませんね』
山内は眼鏡のフレームに触れ、斜め向かいの真紀に視線を移す。彼女は眉間にシワを寄せてコーヒーを飲んでいた。
「気にしないで続けて」
『美人に見つめられるのは慣れていないんですよ』
「あなたもそういう冗談言うのね」
『ええ、冗談です。カオスにいた時にクイーンの顔を飽きるほど見ていますしね。美人は三日で飽きると言いますが、あれが如何に信用できないことわざか実感しましたよ』
何が可笑しいのか、彼は肩を震わせて笑った。真紀の眉間に益々シワが刻まれる。
『このダンタリオンって管理人、よくここまでのセキュリティを築きましたよね』
「夫も似たようなことを言っていたけど、そんなに凄いの?」
『個人サイトなら少しネットをかじっている人間でも作れますが、ダンタリオンはまず素人ではない、ITに精通した人間です。プログラムに隙がない。おまけに性格は神経質で用心深い』
パソコン関係の知識が乏しい真紀には、IT技術に長けるダンタリオンの凄さはわからない。どちらにしてもダンタリオンも貴嶋に加担する犯罪者だ。
『だけどこれは面白いことになりましたね』
「何かわかった?」
身を乗り出す真紀を山内は見上げた。感情を感じさせない彼の瞳が揺らいでいる。
『今回の事件、あなた達警察が考えている筋書きとは、事情が少し異なるようですよ』
コーヒーを一口飲み、山内はノートパソコンの画面を真紀に向けた。彼女は椅子に座り直してそこに表示されたものを目で追った。
「……どういうこと?」
『見たままでは?』
見たままと言われても、一度見ただけでは内容の理解が追い付かない。山内の台詞を借りれば“筋書きが異なっている”のだ。
「この画面はどうやって出したの?」
『ダンタリオンの管理人ページのハッキングの完了と同時に自動で表示されました』
「ここに書いてあることは事実?」
『さぁ。僕に聞かれても。事実かどうかを調べるのがあなたの仕事ですよね』
憎らしい微笑で言われた正論に返す言葉もない。
『助けてあげてくださいね』
「……え?」
これまでの常識を覆されて、戸惑いの渦の中で考え込んでいた真紀は彼の言葉を聞き返す。山内は仕事を終えた手を揉みほぐしながら口を開いた。
『浅丘美月。ああ、結婚して苗字が変わったんでしたね。彼女もキングと一緒にいるんでしょう?』
「おそらくは。あの子に何かある前に助け出さないと」
『そうですね。でもキングが浅丘美月と一緒にいる状況は、僕としては安心している部分もあります』
「安心? 何故?」
飄々としていた山内の表情が憂いに包まれる。彼のこの表情は9年前にも見た顔だ。
9年前に山内を逮捕した時も、彼は何かを悟った憂いの表情をしていた。
『クイーンがいない今、キングが心を許せる人間は限られています。……助けてあげて欲しいですね』
意味深な物言いを最後に山内は口を閉ざした。
『そうやって、ずっと見られているのも落ち着きませんね』
山内は眼鏡のフレームに触れ、斜め向かいの真紀に視線を移す。彼女は眉間にシワを寄せてコーヒーを飲んでいた。
「気にしないで続けて」
『美人に見つめられるのは慣れていないんですよ』
「あなたもそういう冗談言うのね」
『ええ、冗談です。カオスにいた時にクイーンの顔を飽きるほど見ていますしね。美人は三日で飽きると言いますが、あれが如何に信用できないことわざか実感しましたよ』
何が可笑しいのか、彼は肩を震わせて笑った。真紀の眉間に益々シワが刻まれる。
『このダンタリオンって管理人、よくここまでのセキュリティを築きましたよね』
「夫も似たようなことを言っていたけど、そんなに凄いの?」
『個人サイトなら少しネットをかじっている人間でも作れますが、ダンタリオンはまず素人ではない、ITに精通した人間です。プログラムに隙がない。おまけに性格は神経質で用心深い』
パソコン関係の知識が乏しい真紀には、IT技術に長けるダンタリオンの凄さはわからない。どちらにしてもダンタリオンも貴嶋に加担する犯罪者だ。
『だけどこれは面白いことになりましたね』
「何かわかった?」
身を乗り出す真紀を山内は見上げた。感情を感じさせない彼の瞳が揺らいでいる。
『今回の事件、あなた達警察が考えている筋書きとは、事情が少し異なるようですよ』
コーヒーを一口飲み、山内はノートパソコンの画面を真紀に向けた。彼女は椅子に座り直してそこに表示されたものを目で追った。
「……どういうこと?」
『見たままでは?』
見たままと言われても、一度見ただけでは内容の理解が追い付かない。山内の台詞を借りれば“筋書きが異なっている”のだ。
「この画面はどうやって出したの?」
『ダンタリオンの管理人ページのハッキングの完了と同時に自動で表示されました』
「ここに書いてあることは事実?」
『さぁ。僕に聞かれても。事実かどうかを調べるのがあなたの仕事ですよね』
憎らしい微笑で言われた正論に返す言葉もない。
『助けてあげてくださいね』
「……え?」
これまでの常識を覆されて、戸惑いの渦の中で考え込んでいた真紀は彼の言葉を聞き返す。山内は仕事を終えた手を揉みほぐしながら口を開いた。
『浅丘美月。ああ、結婚して苗字が変わったんでしたね。彼女もキングと一緒にいるんでしょう?』
「おそらくは。あの子に何かある前に助け出さないと」
『そうですね。でもキングが浅丘美月と一緒にいる状況は、僕としては安心している部分もあります』
「安心? 何故?」
飄々としていた山内の表情が憂いに包まれる。彼のこの表情は9年前にも見た顔だ。
9年前に山内を逮捕した時も、彼は何かを悟った憂いの表情をしていた。
『クイーンがいない今、キングが心を許せる人間は限られています。……助けてあげて欲しいですね』
意味深な物言いを最後に山内は口を閉ざした。