早河シリーズ完結編【魔術師】
早河は銃口に怯える様子もなく貴嶋との距離を詰める。貴嶋はまだ発砲しない。
『俺はお前を救うために今までお前を追い続けてきたのかもしれない』
サイレンの音が聞こえても両者は睨み合いを続けた。
『君に私が救えるとでも?』
『救えるとは思っていない。お前は救いようのない馬鹿だからな。だけど助けが欲しかったんだろ? スパイダーに宛てた、“アレ”はお前からのSOSだ』
『私の意図は伝わっていたわけか。優秀な部下が二人もいてくれたおかげかな』
府中刑務所に服役中の山内慎也、そしてここにいる佐藤瞬。二人のかつての部下は貴嶋の理解者だ。
早河は貴嶋の拳銃に手を伸ばした。
『男なら拳で勝負しろよ』
銃のセイフティは外れていない。早河を殺す気なら安全装置を外していたはずだ。
早河が回収したワルサーPPKは大西が受け取った。
『拳で君が私に勝てるとは思えないね』
『言ってくれるじゃねぇか』
国道沿いにパトカーが並び、警官隊を率いた上野警視と石川警視正が遊歩道に降り立った。彼らは殴り合う早河と貴嶋の状況に目を見張る。
『早河は何をやってるんだ?』
『あの、少し待っていただけませんか?』
殴り合いを止めに入ろうとした上野と石川を大西が引き留めた。
『あれが早河の結論なんです。あいつは友達として貴嶋を救ってやりたいんです。貴嶋が所持していた銃は回収済みですし、逃亡の危険もないかと……。お願いします。今は早河の好きにさせてやってください』
頭を下げる大西を見て、上野と石川は肩をすくめる。大西達のやりとりを聞いていた警官隊も、戸惑いつつ貴嶋への威嚇体勢を解いた。
早河の拳が貴嶋の頬をかすめ、よろめいた貴嶋は段差に足をとられてゆるやかな階段を転がり落ちた。
「キング!」
砂浜に落下した貴嶋に駆け寄ろうとする美月の腕を佐藤が掴んで止める。
「佐藤さん、なんで……」
『あの二人の気が済むまで、手出ししてはいけないよ』
佐藤に優しく諭された美月はそれでも不安げな視線を貴嶋と早河に送る。早河が階段を降りて砂浜に伏せる貴嶋の隣に立った。
『もう終わりか?』
『まだまだ……このままじゃ終わらないよ』
咳き込みながら立ち上がった貴嶋は服や手についた砂と雪を払った。この海岸にも関東地方を直撃した寒波の名残があり、砂浜は白く雪化粧している。
早河の攻撃を避けた貴嶋が、渾身の一撃を早河に打ち込んだ。今度は早河が腹部を押さえて咳き込んで雪の砂浜に膝をついた。
『俺はお前を救うために今までお前を追い続けてきたのかもしれない』
サイレンの音が聞こえても両者は睨み合いを続けた。
『君に私が救えるとでも?』
『救えるとは思っていない。お前は救いようのない馬鹿だからな。だけど助けが欲しかったんだろ? スパイダーに宛てた、“アレ”はお前からのSOSだ』
『私の意図は伝わっていたわけか。優秀な部下が二人もいてくれたおかげかな』
府中刑務所に服役中の山内慎也、そしてここにいる佐藤瞬。二人のかつての部下は貴嶋の理解者だ。
早河は貴嶋の拳銃に手を伸ばした。
『男なら拳で勝負しろよ』
銃のセイフティは外れていない。早河を殺す気なら安全装置を外していたはずだ。
早河が回収したワルサーPPKは大西が受け取った。
『拳で君が私に勝てるとは思えないね』
『言ってくれるじゃねぇか』
国道沿いにパトカーが並び、警官隊を率いた上野警視と石川警視正が遊歩道に降り立った。彼らは殴り合う早河と貴嶋の状況に目を見張る。
『早河は何をやってるんだ?』
『あの、少し待っていただけませんか?』
殴り合いを止めに入ろうとした上野と石川を大西が引き留めた。
『あれが早河の結論なんです。あいつは友達として貴嶋を救ってやりたいんです。貴嶋が所持していた銃は回収済みですし、逃亡の危険もないかと……。お願いします。今は早河の好きにさせてやってください』
頭を下げる大西を見て、上野と石川は肩をすくめる。大西達のやりとりを聞いていた警官隊も、戸惑いつつ貴嶋への威嚇体勢を解いた。
早河の拳が貴嶋の頬をかすめ、よろめいた貴嶋は段差に足をとられてゆるやかな階段を転がり落ちた。
「キング!」
砂浜に落下した貴嶋に駆け寄ろうとする美月の腕を佐藤が掴んで止める。
「佐藤さん、なんで……」
『あの二人の気が済むまで、手出ししてはいけないよ』
佐藤に優しく諭された美月はそれでも不安げな視線を貴嶋と早河に送る。早河が階段を降りて砂浜に伏せる貴嶋の隣に立った。
『もう終わりか?』
『まだまだ……このままじゃ終わらないよ』
咳き込みながら立ち上がった貴嶋は服や手についた砂と雪を払った。この海岸にも関東地方を直撃した寒波の名残があり、砂浜は白く雪化粧している。
早河の攻撃を避けた貴嶋が、渾身の一撃を早河に打ち込んだ。今度は早河が腹部を押さえて咳き込んで雪の砂浜に膝をついた。