早河シリーズ完結編【魔術師】
瞳を潤ませる貴嶋を美月は抱き締める。その隣では早河と佐藤が世話の焼ける友人を見守っていた。
審判の時。罪人を裁くのは勇者と女神。罪人を許すのもまた、勇者と女神。
美月と身体を離した貴嶋は、照れ臭そうに涙が滲む目元を隠して呟いた。
『拳で勝負しろね。青春漫画の臭い台詞だなぁ。あー、クサイクサイ』
『しょうがねぇだろ。今の俺は探偵だ。持ってる武器はこの拳しかない。でも高校の時に殴り合いしてたら、確実に俺の方が負けてたな』
早河の右手に巻かれた包帯には血が滲んでいる。貴嶋との殴り合いの衝撃で、負傷していた手の甲の傷口が開いてしまったらしい。
『君との出会いは5月だったね』
『季節外れの変な転校生が来たなって思った。転校早々、お前が中間テストで学年トップなんかになるから、ヤベェ連中に目をつけられてさ』
『ああ、あの雑魚ね。いつだったかな。ハタチくらいの頃か。あの時の連中のひとりがヤクザの三次団体にいたんだ。速攻でその組は潰したよ』
『さらっと潰したとか言うな』
花開く昔話は少々おっかない。美月も加わって、しばらくは早河と貴嶋の高校時代の思い出話が披露された。
上野警視と石川警視正が近付いて来た。石川に手錠をかけられる時も貴嶋は抵抗しなかった。
遊歩道に続く階段の途中で貴嶋が振り返った。彼の視線は砂浜にいる美月に注がれる。
『美月。最後にあの質問の答えを聞かせてくれるかな。君の赤い糸の相手は誰?』
出題された質問の答えを彼女は手に入れていた。赤い糸の赤色は血の色。命と命の強い結び付き。
──“君の赤い糸は誰に繋がっている?”──
「赤い糸の相手がひとりじゃないといけないなんて、誰が決めたの?」
微笑む美月に貴嶋も微笑み返す。
『うん、確かにその通りだ』
「これでいいのかな?」
『いいんだよ。君の答えが私は気に入った。美月らしく、悔いのないようにね』
美月と貴嶋のみが意味を知るやりとり。周囲の者達の困惑をよそに、二人は視線で最後の別れを交わした。
クライマックスの第一部の幕は閉じ、第二部の幕が上がる。パトカーのサイレンの音が閉幕と開幕の合図。
たった今、早河の腕時計が20時を示した。
審判の時。罪人を裁くのは勇者と女神。罪人を許すのもまた、勇者と女神。
美月と身体を離した貴嶋は、照れ臭そうに涙が滲む目元を隠して呟いた。
『拳で勝負しろね。青春漫画の臭い台詞だなぁ。あー、クサイクサイ』
『しょうがねぇだろ。今の俺は探偵だ。持ってる武器はこの拳しかない。でも高校の時に殴り合いしてたら、確実に俺の方が負けてたな』
早河の右手に巻かれた包帯には血が滲んでいる。貴嶋との殴り合いの衝撃で、負傷していた手の甲の傷口が開いてしまったらしい。
『君との出会いは5月だったね』
『季節外れの変な転校生が来たなって思った。転校早々、お前が中間テストで学年トップなんかになるから、ヤベェ連中に目をつけられてさ』
『ああ、あの雑魚ね。いつだったかな。ハタチくらいの頃か。あの時の連中のひとりがヤクザの三次団体にいたんだ。速攻でその組は潰したよ』
『さらっと潰したとか言うな』
花開く昔話は少々おっかない。美月も加わって、しばらくは早河と貴嶋の高校時代の思い出話が披露された。
上野警視と石川警視正が近付いて来た。石川に手錠をかけられる時も貴嶋は抵抗しなかった。
遊歩道に続く階段の途中で貴嶋が振り返った。彼の視線は砂浜にいる美月に注がれる。
『美月。最後にあの質問の答えを聞かせてくれるかな。君の赤い糸の相手は誰?』
出題された質問の答えを彼女は手に入れていた。赤い糸の赤色は血の色。命と命の強い結び付き。
──“君の赤い糸は誰に繋がっている?”──
「赤い糸の相手がひとりじゃないといけないなんて、誰が決めたの?」
微笑む美月に貴嶋も微笑み返す。
『うん、確かにその通りだ』
「これでいいのかな?」
『いいんだよ。君の答えが私は気に入った。美月らしく、悔いのないようにね』
美月と貴嶋のみが意味を知るやりとり。周囲の者達の困惑をよそに、二人は視線で最後の別れを交わした。
クライマックスの第一部の幕は閉じ、第二部の幕が上がる。パトカーのサイレンの音が閉幕と開幕の合図。
たった今、早河の腕時計が20時を示した。