早河シリーズ完結編【魔術師】
 千秋が警視庁に配属された2年前の2016年10月23日。ついに彼女は行動を起こす。
東京拘置所のセキュリティデータをハッキングし、セキュリティが無効になった拘置所に忍び込んだ彼女は貴嶋の独房の鍵を外した。

「キングは最初は奇妙そうに私を観察していました。私の意図を探っていたんです」

7年間の牢獄暮らしに別れを告げて自由の身となった貴嶋は、千秋に問いかけた。


 ──“君の望みは何?”── と。


「私の望みはキングの復活。もう一度カオスの栄光を取り戻して、キングは再び絶対的な支配者となる。それが私の望みでした」

 日の当たらない日陰の人生に差し込んだ一筋の光。千秋にとって“犯罪組織カオスのキング”は光そのものだった。

 取調室には聴取を担当する上野の他には小山真紀がいる。マジックミラーの向こう側では、同僚の芳賀敬太と杉浦誠が千秋の供述を聞いていた。

 脱獄した貴嶋に千秋はスマートフォンと潜伏先を与え、彼らは密接に連絡を交わしていた。
貴嶋に渡したスマホのGPSで千秋はいつでも貴嶋の居場所を特定できた。警察が血眼になって貴嶋を捜索している最中でも、千秋だけは貴嶋がどこにいるか把握していたのだ。

『未成年者の集団自殺。貴嶋はあの事件は自分の命令でやらせたことではないと言っているが、主犯は誰だ?』

昨年から相次いだ未成年者集団自殺事件に貴嶋は関わりがないと主張している。

「あの主犯はシトリー……小柳の独断です。小柳はちょっと頭がおかしい奴で、キングが本物の神だと信じ込んでいました。未成年の子どもの純粋な魂を捧げればキングが復活するとか言い出すので、試しに好きにやらせていたらああなって……。あれは現代の神への生け贄の儀式だそうです。演出としては面白みのある趣向ですよ」

 小柳の自殺の原因はイジメではなく、小柳を溺愛する母親にあると千秋は指摘した。千秋のように親に愛されずに育った過去が起因して心が屈折する者もいれば、溺愛や過干渉も子どもの心と人生を壊す。

どちらも世間からは毒親と呼ばれる。

小柳の母親は、自分の行き過ぎた愛情が息子を死に追いやったとは夢にも思わない。皮肉なものだ。

「キングの復活を望んでいたのは私や小柳だけじゃない。バルバトスやバティンもキングと犯罪組織カオスの復活を望んだ。私達はそれぞれの理想を抱いて、ネットの中で集まっていました」

 本名も顔も年齢も知らない、世間から疎外された日陰の者達は千秋が開設した〈貴嶋佑聖を慕う者達へ〉のファンサイトに集い交流を重ね、いつしか交流場所はトークアプリに移った。
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