早河シリーズ完結編【魔術師】
気楽で気軽な関係は楽でいい。それが人生の救いとなって必要な時もある。
菜々子も〈なっぱ〉のツイッターアカウントは削除できない。自分にはまだ必要な場所だからだ。
でも心の繋がりのない一時のデジタル文字の果てに何が残る? ネットの中の友達を数えて理解者がいると安心して、でもそれでいいの?
ネットの友達が〈友達〉だと思っていた。菜々子のツイッターのフォロワーの814人が味方だと思っていた。
〈あーりん〉がいなくなって、フォロワーは813人になった。本当に813人の彼らは菜々子の友達? 味方?
「今の自分から変わりたいって思った時に発想が単純でお恥ずかしいんですけど、髪を切りたくなって。髪を切ったらコンタクトにしたくなったんです。外見が変われば少しは前を向いて歩けるような気がして」
無性に友達が欲しくなった。恋もしてみたくなった。リアルの、本物の。
隼人と美月のような血の通った人間関係を築きたくなった。
「それは木村主任と奥様が一歩を踏み出すきっかけをくれたのかな?」
「はい。本当に素敵なご夫婦なんです。主任、早く復帰されるといいんですが……」
隼人はまだ入院中だ。菜々子が退院してから一度、瞳や経営戦略部の同僚達と隼人の見舞いに訪れた。
その時は2月中の退院を目指していると隼人は言っていた。
「吉川副主任の話では木村主任は来月には復帰するみたい。田崎部長も年度が変わるまでには、木村主任に復帰して欲しいんだって。主任は田崎部長の片腕だから大怪我してもゆっくり休ませてもらえないのよねぇ」
瞳は時折、部長クラスの情報に詳しい。新入社員の菜々子は田崎部長と直接話す機会も皆無だ。
瞳がどこから部長や次長の情報を入手しているのか、以前から気になっていた。
気さくな瞳も完全には菜々子に心を見せていないのだろう。
菜々子が心を見せ始めたら、瞳もいつかは話してくれるかもしれない。仕事が終わると必ず左手薬指につけるシルバーの指輪のことも。
「ね、今日一緒に化粧品買いに行かない? 坂下さんに似合う物ひとつずつ揃えていこうよ」
「はい! 行きます」
ゆっくりでいいから前向きに。自分らしく。
人は変われる。変わりたいと思った時から最初の一歩は始まっている。
一歩ずつ人生を歩いていこう。
太陽の光が暖かい2月の初め。今日の東京、天気は晴れ。
菜々子も〈なっぱ〉のツイッターアカウントは削除できない。自分にはまだ必要な場所だからだ。
でも心の繋がりのない一時のデジタル文字の果てに何が残る? ネットの中の友達を数えて理解者がいると安心して、でもそれでいいの?
ネットの友達が〈友達〉だと思っていた。菜々子のツイッターのフォロワーの814人が味方だと思っていた。
〈あーりん〉がいなくなって、フォロワーは813人になった。本当に813人の彼らは菜々子の友達? 味方?
「今の自分から変わりたいって思った時に発想が単純でお恥ずかしいんですけど、髪を切りたくなって。髪を切ったらコンタクトにしたくなったんです。外見が変われば少しは前を向いて歩けるような気がして」
無性に友達が欲しくなった。恋もしてみたくなった。リアルの、本物の。
隼人と美月のような血の通った人間関係を築きたくなった。
「それは木村主任と奥様が一歩を踏み出すきっかけをくれたのかな?」
「はい。本当に素敵なご夫婦なんです。主任、早く復帰されるといいんですが……」
隼人はまだ入院中だ。菜々子が退院してから一度、瞳や経営戦略部の同僚達と隼人の見舞いに訪れた。
その時は2月中の退院を目指していると隼人は言っていた。
「吉川副主任の話では木村主任は来月には復帰するみたい。田崎部長も年度が変わるまでには、木村主任に復帰して欲しいんだって。主任は田崎部長の片腕だから大怪我してもゆっくり休ませてもらえないのよねぇ」
瞳は時折、部長クラスの情報に詳しい。新入社員の菜々子は田崎部長と直接話す機会も皆無だ。
瞳がどこから部長や次長の情報を入手しているのか、以前から気になっていた。
気さくな瞳も完全には菜々子に心を見せていないのだろう。
菜々子が心を見せ始めたら、瞳もいつかは話してくれるかもしれない。仕事が終わると必ず左手薬指につけるシルバーの指輪のことも。
「ね、今日一緒に化粧品買いに行かない? 坂下さんに似合う物ひとつずつ揃えていこうよ」
「はい! 行きます」
ゆっくりでいいから前向きに。自分らしく。
人は変われる。変わりたいと思った時から最初の一歩は始まっている。
一歩ずつ人生を歩いていこう。
太陽の光が暖かい2月の初め。今日の東京、天気は晴れ。