早河シリーズ完結編【魔術師】
 レジの順番で隼人達の直後に会計を済ませた。隼人の前に会計をすると、どうしても購入する少女マンガを見られてしまうからだ。
隼人は文庫本二冊と絵本三冊を購入していた。

『来年度から2年目だね。仕事どう? 困ってることはない?』
「主任や先輩方がわかりやすく仕事を教えてくださるので、困ってることはありません」

 エスカレーターに向かう道すがらも隼人は人目を気にせず堂々と歩いている。一方の菜々子はおどおどと左右を見回してうつむいていた。

その場の流れで隼人達とエスカレーターで一階に降り立った。下で待っていたベビーカーを引いた女性に斗真は一目散に駆け寄っていく。

『ママ!』
「斗真ー! お、パパに何か買ってもらったな?」

 木村美月は甘える斗真の相手をしながら、隼人の隣にいる菜々子に気付いて会釈した。
菜々子にとって二次元の美少女が三次元に現れた瞬間だ。

『美月、部下の坂下さんだ』
「は、はじめまして! 坂下菜々子と申します。木村主任にはいつもお世話になっておりますっ!」

美月との対面に舞い上がった菜々子の声が上擦る。隼人の妻の美月は、菜々子が好きな美少女アニメ〈桃色学園プリンセス〉の主人公コモモに似ていた。

(コモモちゃんが三次元にいる! リアルコモモちゃん!可愛い!)

 喉元まで出かかったコモモの名前を封じ込めて菜々子はお辞儀する。菜々子はこれまで二次元のキャラ以外にときめきを感じた経験がなかったが、崇拝するコモモと容姿が酷似した美月を前にして動悸が激しい。

「はじめまして。こちらこそ主人がいつもお世話になっております」

美月と隼人が並ぶ様は一段と神々しい。
桃色学園プリンセスの男性キャラで、コモモの彼氏のショウくんと隼人もよく似ている。見目麗しく成績優秀なショウくんは学園の王子様だ。

(リアルコモモちゃんとリアルショウくん……尊い。このまま天に召されてもいいくらい眼福……)

『坂下さん、またね』
「はいっ」

 木村夫妻を見送った後、ショッピングフロアから映画館に移動した。映画の入場待ちの時間に〈なっぱ〉のツイッターアカウントを開いてツイートを投稿する。
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