早河シリーズ完結編【魔術師】
クラゲの水槽を離れて二階へ降りた。二階のレストランで昼食の時間だ。
館内のレストランは巨大な水槽を囲んでテーブル席があり、食事をしながら魚を観賞できる。
水槽の前のテーブルに座って、注文を済ませた彼らは一息ついた。
「本音はね、今まで先輩に彼女ができた時もなんだかモヤモヤしてたんだ」
『おっ。ヤキモチ?』
「そうみたい」
困った顔で微笑する美月は愛らしい。彼女が無意識に行う仕草が男を惹き付ける。
美月は悪女の自覚のない悪女だ。
「先輩は静香ちゃんが好きなんだよね?」
『ああ……気付いてた? それとも隼人くんに聞いた?』
「その両方。でも隼人から聞かなくてもわかっちゃった。静香ちゃんと話してる時の先輩はとっても楽しそうで、先輩が遠くに行っちゃった気分になって勝手に寂しくなってたの。そんな資格ないのに静香ちゃんにもヤキモチ妬いて……」
隣の席のカップルから歓声があがる。人間の何倍も体が大きな魚がこちらに泳いできた。
硝子で隔たれた向こう側は人工的に創造された海の領域。
こちらとあちらの違いはなに?
たとえば男友達に恋人が出来た時、一抹の寂しさを感じるね。
たとえば女友達に恋人が出来た時、手の届かない遠くに行ってしまった気持ちになるね。
人間だけが常に思い悩んで葛藤している。
『俺はどこにも行かないよ。これからも美月の側に居させてもらえるなら側にいたいと思ってる。美月や隼人くんが困ってる時は助けたいし、力になりたい』
「またそうやって格好いいこと言う。やっぱり先輩の唯一の欠点は優しすぎるところだね」
優し過ぎる男と素直過ぎる女の、たった一夜の罪深き物語。
『ははっ。でもこれでやっとすっきりしたよ』
「私も。静香ちゃんとのこと応援しています」
二人の罪は消えない。消したくないから消さないよ。
あれは罪ではなくて確かに愛と言う名の、夏の夢だったから。
館内のレストランは巨大な水槽を囲んでテーブル席があり、食事をしながら魚を観賞できる。
水槽の前のテーブルに座って、注文を済ませた彼らは一息ついた。
「本音はね、今まで先輩に彼女ができた時もなんだかモヤモヤしてたんだ」
『おっ。ヤキモチ?』
「そうみたい」
困った顔で微笑する美月は愛らしい。彼女が無意識に行う仕草が男を惹き付ける。
美月は悪女の自覚のない悪女だ。
「先輩は静香ちゃんが好きなんだよね?」
『ああ……気付いてた? それとも隼人くんに聞いた?』
「その両方。でも隼人から聞かなくてもわかっちゃった。静香ちゃんと話してる時の先輩はとっても楽しそうで、先輩が遠くに行っちゃった気分になって勝手に寂しくなってたの。そんな資格ないのに静香ちゃんにもヤキモチ妬いて……」
隣の席のカップルから歓声があがる。人間の何倍も体が大きな魚がこちらに泳いできた。
硝子で隔たれた向こう側は人工的に創造された海の領域。
こちらとあちらの違いはなに?
たとえば男友達に恋人が出来た時、一抹の寂しさを感じるね。
たとえば女友達に恋人が出来た時、手の届かない遠くに行ってしまった気持ちになるね。
人間だけが常に思い悩んで葛藤している。
『俺はどこにも行かないよ。これからも美月の側に居させてもらえるなら側にいたいと思ってる。美月や隼人くんが困ってる時は助けたいし、力になりたい』
「またそうやって格好いいこと言う。やっぱり先輩の唯一の欠点は優しすぎるところだね」
優し過ぎる男と素直過ぎる女の、たった一夜の罪深き物語。
『ははっ。でもこれでやっとすっきりしたよ』
「私も。静香ちゃんとのこと応援しています」
二人の罪は消えない。消したくないから消さないよ。
あれは罪ではなくて確かに愛と言う名の、夏の夢だったから。