早河シリーズ完結編【魔術師】
 その夜、子ども達を寝かしつけた美月は寝室を出た。リビングでは隼人がコーヒーを飲んでいる。

『ケジメついたってヒロが言ってた』
「うん。私もすっきりしたよ」

 ソファーにいる隼人の隣に腰を降ろして、彼の腕の中に潜り込んだ。
昼間に美月が帰宅した直後に斗真が昼寝から目覚めてしまい、隼人とゆっくり話せるタイミングがなかった。やっと訪れた夫婦二人の時間。

「隼人はいつも私のワガママ聞いてくれるよね。私は隼人に甘えてばっかり」
『俺にだけはワガママ言って甘えていい。好きなだけ甘えろよ』

 隼人が美月の額にキスを落とし、それから唇を重ねる。彼が飲んでいたブラックコーヒーの香りと味が口内に広がった。

 佐藤瞬と松田宏文。確かに美月は隼人以外の男にも惹かれて、恋をしてきた。

松田とは関係を友情に変えられたが、佐藤には今でも恋したままだ。
だけど、どれだけ他の男に惹かれても彼女が安心できる場所は隼人の腕の中。ここが彼女が彼女らしくいられる居場所。

「隼人もだよ。隼人も私にワガママ言って甘えて欲しい。隼人は物分かり良すぎるんだよ」

隼人は目を見張る。美月からそんな言葉を言われるとは思いもしなかった。

「佐藤さんのこともそう。私だけいつも隼人にワガママ聞いてもらってる」
『……俺が物分かり良いと、本当に思ってる?』

 抱き締める力が強くなった。痛いくらいに力強い抱擁、接触する身体は熱を帯びて、二つの鼓動は重なり合いひとつのリズムを刻む。

『じゃあ遠慮なくワガママ言っていい?』

耳元で囁かれた隼人の声は艶っぽくて、彼のこの声に何度も鼓動を速くさせられている。

「なんでも言って?」

 美月が答えるや否や、彼は美月をソファーに押し倒した。何も言わずにふたつの唇を重ね続け、隼人はようやく顔を上げる。

『俺だけ見てて。これからも佐藤に会いに行っていい。ヒロとも仲良くしていていい。だけど、俺だけを見てろ』

 美月の前では格好つけたがりな隼人が見せた本音。彼はこれまで沢山無理をしてきたのだろう。

佐藤への恋心を抱える美月を受け入れ、佐藤を想い続ける美月を許し、佐藤に会いに行かせてくれる。それは並大抵の覚悟ではない。
何度も話し合って決めた結論だとしても、きっと隼人は無理をしている。
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