早河シリーズ完結編【魔術師】
 明美は肩を落としてうなだれる。

「早河さん。誤算はまだあります。私の一番の誤算は、真愛ちゃんの父親が“探偵さん”だったこと。真愛ちゃんが犯人捜しをあなたに依頼したこと。正義のヒーローの探偵さんの存在が最大の誤算でした。真愛ちゃんの学校で事件が起きたら、あなたが関わってくるのは予想できたはずなのに……」

 眼鏡の破片についた血痕と指紋、23㎝の血の靴跡、パトロールの警官の目撃証言を合わせれば、早河が介入しなくとも警察は明美に辿り着いただろう。
でも明美にしてみれば早河が事件に関わったことが最大の誤算なのだ。

 子ども達の憩いの庭の噴水の前で、黒田刑事が待機している。黒田に逮捕された明美は裏門からパトカーに乗せられ、中野警察署に連行された。

大人になれば夜の学校も大して怖いとは思わないが、ひっそりと静まる校舎やグラウンドは不気味で長居はしたくない。
学校から借りた鍵で黒田が裏門を施錠した。

『佐竹明美は自首の形でいいんですよね?』
『ああ。彼女は素直に自白した。自首なら裁判での心証も良くなるだろ』
『早河さんのせめてもの優しさですね』
『どうだろうな。家族以外には本当の意味では優しくはなれねぇよ』

 うさぎを殺した犯人を捕まえる。真愛から受けた依頼は果たした。あとは警察の仕事だ。

 今夜は真愛をなぎさの実家の香道家に預けている。自宅に帰っても誰もいない。

真愛と一緒の時は手を抜かない夕食も、今日はカップラーメンで済ませた。風呂もシャワーだけ。
今は一刻も早く眠りたかった。

 静かな家でひとりきりで眠る夜を寂しいと感じる。昔はいつもひとりだった。
母も父も死に、いつも孤独だった。わざと孤独になろうとした時期もあった。

ひとりは慣れていると思っていたのに。今宵はひとりが寂しかった。
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