早河シリーズ完結編【魔術師】
(先週木曜に貴嶋が都内にいたのは間違いないか……)

 先週の木曜は、東久留米市で未成年者の集団自殺の遺体が発見された日でもある。少年少女達がツイッターに遺した最期の言葉には貴嶋の名前が書き込まれていた。

未成年者集団自殺と貴嶋に因果関係があることは確かだ。

(あとは佐藤瞬か)

 佐藤の生存情報は上野警視に連絡をもらって知った。今、上野の部下の小山真紀が佐藤の元恋人の美月に事情を訊きに行っている。

 9年前のカオス壊滅のあの時から浮上していた、雲を掴むような不確かな感覚が急速に形を帯びていく。

佐藤瞬が生きているとなれば、警察に保管されていた佐藤のDNAデータが改竄《かいざん》されていた疑いが強い。警察のデータベースに侵入してデータの書き換えを行った人物については、それが可能だった人間がカオスの幹部に一人だけいる。

 9年前に佐藤の死亡に疑いを抱いた早河の勘は当たっていた。

(そうなると7年前のジャーナリスト殺しも怪しくなってくる)

 7年前の2011年10月、ジャーナリストの男が不審な死を遂げた。男は犯罪組織カオスと貴嶋、美月に興味を抱き、貴嶋と美月の周辺を調べ回っていた節がある。

男の死因が銃殺であることや、男が所持していたスマートフォンの内部データが修復不可能なほど破損していたこと等、多くの謎を残して事件は未解決となっている。
(【Guilty secret】参照)


『早河さん、そんな眉間にシワ寄せてっと、そのうち人相悪くなりますよ。こーんな風に』

 店主の熊野が眉間にシワを寄せた。昔は強面のヤクザだった熊野も、蕎麦屋の店主に落ち着いてからはかつての凄みも半減している。

彼の睨みもただの変な顔にしか見えず、早河は蕎麦をすすって苦笑いを溢した。
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