早河シリーズ完結編【魔術師】
小山真紀は木村家の自宅の廊下に出て上司の上野恭一郎に報告の連絡を入れた。
{美月ちゃんの様子は?}
「動揺はしていますが、受け答えはしっかりしています。比奈ちゃんが側にいてくれなければ、私だけでは荷が重い仕事でした」
{小山はよくやってくれた。俺が美月ちゃんに話を聞くべきなんだろうが、何しろ佐藤のことだ。女同士だから聞き出せる話もある}
正直な心情を吐露する真紀を上野が労《ねぎら》う。真紀はリビングにいる美月達には聞こえない小さな声で呟いた。
「美月ちゃんが佐藤を庇っている様子は見受けられません。しかし今後、佐藤逮捕の動きが強まるに従って彼女がどう動くかは……」
{……そうだな。彼女が逮捕の妨害をすることはないと思いたい}
上野の心労の溜息が電話越しに伝わった。上野と真紀は、刑事として佐藤を逮捕しなければならない。
それによって美月を傷付けることになったとしても。
「小柳は現れませんか?」
{まったく姿を見せない。どこに雲隠れしているのか。明日、小柳が矢野に送ってきた例の集合場所を張れば奴がそこに現れるかもしれない}
小柳が指定した日時は明日の14時、場所は新宿の映画館。明日が自殺志願者が集められる日だとすれば映画館に小柳が現れる確率は非常に高い。
{貴嶋の狙いは美月ちゃんだ。小山は美月ちゃんの警護を頼む。本部の方針が決まり次第知らせる}
「わかりました」
美月の警護と監視も兼ねて、しばらくは木村家で待機となった。真紀がリビングに戻ると眠りから目覚めた美夢が美月にオムツを替えてもらっていた。
「女の子はオムツ替えも大人しいものね。うちの坊主達はオムツを替えるたびにハイハイして逃げ回っていたの」
オムツを替えてもらって機嫌よく手足をばたつかせる美夢の姿が懐かしくて、真紀は息子二人の赤ん坊の頃を思い出した。
「小山さんのお子さんは男の子二人でしたよね」
比奈が聞く。真紀はおぼつかない足取りでこちらに歩いてきた美夢に手を差し伸べた。
「上の子は6歳。下の子は3歳。どっちも旦那似のやんちゃ坊主で手を焼いてるよ。一番参るのはアレよ、セミの脱け殻やだんご虫を戦利品みたいにポケットに入れて持ち帰ってくるの。洗濯のたびにびっくりして心臓もたないわ」
「斗真もそれやります。私が虫苦手だからうちでは隼人が斗真の服のポケットを確認してくれるようになったんです」
佐藤の話の時は悲しげな表情をしていた美月も子どもの話になれば表情は和らいで、笑顔も見せている。誰もが彼女の笑顔を壊したくないと思っている。
{美月ちゃんの様子は?}
「動揺はしていますが、受け答えはしっかりしています。比奈ちゃんが側にいてくれなければ、私だけでは荷が重い仕事でした」
{小山はよくやってくれた。俺が美月ちゃんに話を聞くべきなんだろうが、何しろ佐藤のことだ。女同士だから聞き出せる話もある}
正直な心情を吐露する真紀を上野が労《ねぎら》う。真紀はリビングにいる美月達には聞こえない小さな声で呟いた。
「美月ちゃんが佐藤を庇っている様子は見受けられません。しかし今後、佐藤逮捕の動きが強まるに従って彼女がどう動くかは……」
{……そうだな。彼女が逮捕の妨害をすることはないと思いたい}
上野の心労の溜息が電話越しに伝わった。上野と真紀は、刑事として佐藤を逮捕しなければならない。
それによって美月を傷付けることになったとしても。
「小柳は現れませんか?」
{まったく姿を見せない。どこに雲隠れしているのか。明日、小柳が矢野に送ってきた例の集合場所を張れば奴がそこに現れるかもしれない}
小柳が指定した日時は明日の14時、場所は新宿の映画館。明日が自殺志願者が集められる日だとすれば映画館に小柳が現れる確率は非常に高い。
{貴嶋の狙いは美月ちゃんだ。小山は美月ちゃんの警護を頼む。本部の方針が決まり次第知らせる}
「わかりました」
美月の警護と監視も兼ねて、しばらくは木村家で待機となった。真紀がリビングに戻ると眠りから目覚めた美夢が美月にオムツを替えてもらっていた。
「女の子はオムツ替えも大人しいものね。うちの坊主達はオムツを替えるたびにハイハイして逃げ回っていたの」
オムツを替えてもらって機嫌よく手足をばたつかせる美夢の姿が懐かしくて、真紀は息子二人の赤ん坊の頃を思い出した。
「小山さんのお子さんは男の子二人でしたよね」
比奈が聞く。真紀はおぼつかない足取りでこちらに歩いてきた美夢に手を差し伸べた。
「上の子は6歳。下の子は3歳。どっちも旦那似のやんちゃ坊主で手を焼いてるよ。一番参るのはアレよ、セミの脱け殻やだんご虫を戦利品みたいにポケットに入れて持ち帰ってくるの。洗濯のたびにびっくりして心臓もたないわ」
「斗真もそれやります。私が虫苦手だからうちでは隼人が斗真の服のポケットを確認してくれるようになったんです」
佐藤の話の時は悲しげな表情をしていた美月も子どもの話になれば表情は和らいで、笑顔も見せている。誰もが彼女の笑顔を壊したくないと思っている。