早河シリーズ完結編【魔術師】
 真紀は美月と比奈を連れて斗真が行方不明になった公園付近で斗真の捜索をしていた。美月に借りた斗真の写真を見せて、現場周辺の聞き込みに回る。

「この男の子見かけませんでした? 2時間ほど前にあそこの公園で幼稚園の皆と遊んでいたはずなんですが……」
『知らないねぇ。あそこの公園には毎日たくさんの子どもが来るから』

 公園の側の自転車修理屋の店主は首を横に振った。修理屋を出て隣の民家に立ち寄って住人にも同じ質問をしたが、斗真や不審人物の目撃情報は得られなかった。

捜索には幼稚園の峰山主任や園長も加わり、手分けして斗真を捜している。しかし捜索から1時間が経過しても斗真の姿はどこにもなかった。

 公園の前に停めた真紀の車には比奈と、チャイルドシートに乗せた美夢が待っている。斗真を捜す美月の代わりに、比奈が美夢の世話をしてくれていた。

「比奈、せっかくのお休みに付き合わせてごめんね」

車に戻った美月は比奈に詫びる。比奈は不安げな顔の美月を抱き締めた。

「そんなの気にしないで。私も斗真くんが心配だから……。隼人くんには連絡した?」
「まだ……。でもこのまま斗真が見つからなかったらどうしよう……」
「大丈夫。大丈夫だよ」

こんな時に月並みな言葉しか言えないもどかしさ。美月の震える背中を撫でながら、比奈は考えていた。
同じ日に佐藤が美月の前に現れ、斗真が消えた。これは偶然なのか?

 サイレンを鳴らして停車した車から警視庁捜査一課警視の上野恭一郎が降りてきた。上野の姿を見つけた美月は、車から降りて上野に駆け寄る。

『警官を増員して斗真くんを捜してる。必ず見つけるからね』
「はい……」

上野の言葉通り、多数の制服姿の警察官が散り散りに街に飛び出して斗真の捜索が行われた。物々しい雰囲気に付近の住民達も窓や玄関から顔を出してざわついている。

 公園近くのコンビニの防犯カメラに不審人物の姿がないか調べていた上野のスマホが着信した。

『どうした? ……塚本巡査が? 容態は? ……そうか』

二言三言会話を交わして通話終了ボタンをタップした上野は目を閉じて短く息を吐く。一緒にいた警官が上野の様子を窺った。

『警視。どうされました?』
『こうなると斗真くんの失踪も無関係じゃなくなってきたな』

 上野の独り言に説明を求める警官の視線を無視して彼は元部下の早河仁の携帯番号を呼び出した。相手はすぐに応答した。

『今すぐ真愛ちゃんの携帯のGPSを確認してくれ』
{真愛のって……まさか上野さん……}

冷静な早河もこの時ばかりは上ずった声色で取り乱している。
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