早河シリーズ完結編【魔術師】
『そのまさかが起きたかもしれん。真愛ちゃんの警護に就いている塚本巡査が襲われた。命に別状はないようだが、意識不明で病院に運ばれたと連絡があった』
{真愛の警護の警官が襲われたとなると……}
『真愛ちゃんの身に何かあったと考えられる。それともうひとつ悪い知らせだ。美月ちゃんの息子の斗真くんも昼前から行方不明になってる。現在、斗真くんの捜索中だ』

 早河が息を呑んだ。上野も握り締めた手のひらに冷や汗が滲む。

{同じ日に真愛と木村美月の息子に何かがあったとすれば、これは偶然じゃない。二人の子どもが狙われる心当たりはありますからね。共通点はアイツしかいない}
『そう。お前の娘と美月ちゃんの息子……どちらも貴嶋と関わりがある人間の子どもだ』
{真愛のGPSすぐに調べます}

 これは偶然ではない。じりじりと忍び寄る魔手《ましゅ》の気配に上野は身の毛もよだつ悪寒を感じた。


         *

 早河なぎさは恵比寿の二葉書房のビルを出た。真愛を出産後、二葉書房に再就職した彼女の勤務時間は午前10時から午後2時。
真愛がもう少し大きくなれば、いずれはフルタイムで働く日も来るだろう。

編集者としての経験は大学卒業後の新卒の1年間だけだが、早河の助手として傍らで探偵業を手伝っていた2年間に培《つちか》った社会経験は、確実に活かされている。

 恵比寿駅に到着する直前に夫の早河仁から着信があった。駅に入る前になぎさはスマホを耳に当てる。

{仕事終わったか?}
「うん。恵比寿駅に着いたところ。どうしたの?」
{真愛を警護していた警官が襲われた。真愛の携帯のGPSも電源が切ってあって反応がない}
「それって……」
{ああ。真愛が拉致されたんだ}

 恐れていた悪夢が現実になってしまった。
深刻化する子どもを狙った犯罪の予防と対策を目的に、最近は小学生でも学校側に申請すれば校内への携帯電話の持ち込みが可能になっている。

真愛にもGPSの付いた子ども用携帯電話を持たせていた。子どもが現在どこにいるのかGPSで居場所を探索できるようになっているが、携帯本体の電源が切られていればGPSも機能を発揮できない。

「真愛の携帯の充電はあったはずよ。この時間に電源が切れてるなんてありえない」
{真愛をさらった人間が電源を落としたんだろうな。上野さんが言うには、木村美月の息子も昼前から行方不明になっている}
「斗真くんも? じゃあやっぱり真愛と斗真くんは貴嶋が?」
{……だろうな。なぎさもできればタクシー使って帰ってくれ。奴がいつお前も狙ってくるかわからない}

 多くの人が行き交う午後2時の恵比寿駅。見知らぬ人々の誰もが、貴嶋の息がかかった人間に思えてならない。

早河の指示に従って駅前でタクシーを拾ったなぎさは車内で真愛のGPS情報を確認するも、やはりGPSの反応はなかった。
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