早河シリーズ完結編【魔術師】
会議室を出て廊下の角を曲がった石川は、警視庁内の喫煙ルームに入る上野を目撃する。石川も上野を追って喫煙ルームの扉を開けて中に入った。
ソファーに上野が座っている。彼は煙草に火をつけていた。
『禁煙は止めたのか?』
『むしゃくしゃして、つい……』
憂鬱な表情で煙草を咥える上野の隣に石川も腰を降ろす。
『健康診断で肺に異常が見つかって、美月ちゃんから禁煙命令が出て禁煙の誓いしたんだろ? あの子との約束破っていいのか?』
『ははっ。煙草の匂いに気付かれたら怒られるかもなぁ。……怒るだけの元気が今のあの子にあればいいですが』
苦笑しても上野は煙草を手放さない。石川も健康を考えて数年前に煙草を止めたが、喫煙ルームの濁った空気を吸っていると、また極上の嗜好品を求めてしまいそうになる。
『お前のとこの部下がお前と美月ちゃんの関係を怪しんでいたぞ』
『俺とあの子の関係? 誰が?』
『芳賀だ。下手すればお前と美月ちゃんが不倫してると言いかねない』
上野は紫煙を吐き出したついでに肩を震わせて笑い出した。
数年ごとの人事異動で警視庁にも新人がチームに加わるが、この数年の新人には上野も頭を悩ませている。
言うなれば、最近の新人は警察官としての能力は高いが人生経験が足りない。彼らはあまりにも優等生過ぎるのだ。
『芳賀には小山も手を焼いてますよ。しかし不倫って……あの子と俺は28も歳が離れています。娘のようには思っていても、美月ちゃんをそんな目で見たことはありませんよ』
『だがお前の行いが篠山警視を怒らせたんだ。結婚は破談になり、二人ともいまだに独身。篠山警視はあれで美人だからな。縁談の話もいくつかあったそうだがすべて断っている。お前が原因だろ』
『わかってますよ。けど……なんでよりによって今回の指揮官が恵子なんだ……』
先ほどの捜査会議での恵子との一悶着を思い出すだけで腹の虫が収まらない。
ソファーに上野が座っている。彼は煙草に火をつけていた。
『禁煙は止めたのか?』
『むしゃくしゃして、つい……』
憂鬱な表情で煙草を咥える上野の隣に石川も腰を降ろす。
『健康診断で肺に異常が見つかって、美月ちゃんから禁煙命令が出て禁煙の誓いしたんだろ? あの子との約束破っていいのか?』
『ははっ。煙草の匂いに気付かれたら怒られるかもなぁ。……怒るだけの元気が今のあの子にあればいいですが』
苦笑しても上野は煙草を手放さない。石川も健康を考えて数年前に煙草を止めたが、喫煙ルームの濁った空気を吸っていると、また極上の嗜好品を求めてしまいそうになる。
『お前のとこの部下がお前と美月ちゃんの関係を怪しんでいたぞ』
『俺とあの子の関係? 誰が?』
『芳賀だ。下手すればお前と美月ちゃんが不倫してると言いかねない』
上野は紫煙を吐き出したついでに肩を震わせて笑い出した。
数年ごとの人事異動で警視庁にも新人がチームに加わるが、この数年の新人には上野も頭を悩ませている。
言うなれば、最近の新人は警察官としての能力は高いが人生経験が足りない。彼らはあまりにも優等生過ぎるのだ。
『芳賀には小山も手を焼いてますよ。しかし不倫って……あの子と俺は28も歳が離れています。娘のようには思っていても、美月ちゃんをそんな目で見たことはありませんよ』
『だがお前の行いが篠山警視を怒らせたんだ。結婚は破談になり、二人ともいまだに独身。篠山警視はあれで美人だからな。縁談の話もいくつかあったそうだがすべて断っている。お前が原因だろ』
『わかってますよ。けど……なんでよりによって今回の指揮官が恵子なんだ……』
先ほどの捜査会議での恵子との一悶着を思い出すだけで腹の虫が収まらない。