早河シリーズ完結編【魔術師】
 日も暮れて窓の外には月が浮かぶ。隼人が寝室に入るとベッドに寝ていた美月が目を開けた。

「斗真は……?」

美月に聞かれて隼人は力なくかぶりを振る。落胆の表情で美月はうつむいた。

「ダメね、私……。寝込んでる場合じゃないのに」
『今は休め。斗真のことは上野さん達が動いてくれてる。俺達はここで斗真の帰りを待っていよう』

隼人は美月の傍らのベビーベッドで眠る美夢の寝顔を覗いた。こんな非常事態となってもマイペースに成長し続ける娘の存在が、今は唯一の救いだ。

「斗真……お腹空かせてないかな……夜のご飯はビーフシチューがいいって言ってたの。ひとりで……怖くて泣いてないかな……」

 ベッドに腰掛けた隼人は美月を抱き締めた。斗真が大事にしているヒーローのフィギュアや電車のおもちゃが枕元に置かれている。

斗真の身に何が起きているか考えると、二人とも心配でたまらなかった。

 隼人は帰宅する前に佐藤に会ったことを美月にも警察にも話していない。
佐藤瞬は人を殺した犯罪者。犯罪組織に所属していた人間。逮捕され、法によって裁かれるべき人間だ。

でもどうしてだろう。佐藤の逮捕を望んでいない自分がいた。
佐藤が捕まれば美月が悲しむから?
本当にそれだけ?

(なんだかんだで俺も佐藤を頼りにしてるのかもな)

佐藤ならば美月を必ず守ってくれると、どこかで期待して彼を信じている己の心が何よりも腹立たしかった。
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