早河シリーズ完結編【魔術師】
副主任の吉川や同僚達に連絡するよりも、チームリーダーの隼人でなければ解決できない事態のようだ。
『わかった。少し待ってて。……美月』
キッチンにいる美月を呼ぶ。洗い物をしていた彼女が両手をタオルで拭って駆け寄って来た。
『新人がトラブったみたいだ。今から会社行って来てもいいか?』
本当は美月の側についていてやりたい。斗真が誘拐されて不安でたまらない美月をひとりにしたくない。
頬に触れる隼人の手に手を重ねて、美月は頷いた。
「早く行ってあげて」
『ごめんな。……坂下さん、聞こえる?』
隼人はスマホの向こう側の菜々子に話しかけた。菜々子がビクッと肩を震わせた様子が手に取るように想像がつく。
{はい……}
『今からそっちに行くよ。車で行くから……20分くらいで着くと思う』
{わかりました。すみません……}
か細くなって途切れた菜々子の声はそれ以上は聞こえなくなり、隼人は通話を終了して身支度を始めた。
『こんな時にトラブルって……勘弁して欲しい』
つい苛立ちから愚痴をこぼしてしまう。普段の隼人なら決してないことだ。
相手が新入社員の菜々子でなければ、電話越しに口頭の指示で終わらせていただろう。
「新入社員さんなら仕方ないよ。私も新人の時に泣きながら上司に電話したことあるもん。隼人の助けが必要なんだよ」
『本当は行って欲しくないくせに。強がるなよ』
コートを羽織った隼人は美月を抱き締めた。無理して送り出そうとする美月の弱々しい笑顔が見ていられない。
「行って欲しくないよ。でも……」
『わかってる。これも上司の務めだ。でも今の俺の最優先は美月だ。美月と子ども達のこと以外、考えられない。正直そんな余裕ない』
足元では美夢がアニマルパズルに夢中になっていた。ゾウの形のパズルを持つ娘を隼人は抱き上げる。
『美夢。ママのこと頼むな。パパがいない間、ママのボディーガードをしてくれよ』
「ぱぁーぱぁー」
隼人をパパと呼んで美夢はきゃっきゃと笑った。父親の言葉を理解していなくても、隼人には美夢が「私に任せて」と言っている気がした。
『じゃあ行ってくる』
「いってらっしゃい」
隼人を送り出して玄関の扉が閉まった時の既視感は、昨日佐藤をここから送り出した時に感じたものだった。
二度と会えないかもしれない不吉な予感。
そんなことあるわけがないと何度首を横に振っても拭い切れない、胸騒ぎの嵐が美月の心に吹き荒れた。
『わかった。少し待ってて。……美月』
キッチンにいる美月を呼ぶ。洗い物をしていた彼女が両手をタオルで拭って駆け寄って来た。
『新人がトラブったみたいだ。今から会社行って来てもいいか?』
本当は美月の側についていてやりたい。斗真が誘拐されて不安でたまらない美月をひとりにしたくない。
頬に触れる隼人の手に手を重ねて、美月は頷いた。
「早く行ってあげて」
『ごめんな。……坂下さん、聞こえる?』
隼人はスマホの向こう側の菜々子に話しかけた。菜々子がビクッと肩を震わせた様子が手に取るように想像がつく。
{はい……}
『今からそっちに行くよ。車で行くから……20分くらいで着くと思う』
{わかりました。すみません……}
か細くなって途切れた菜々子の声はそれ以上は聞こえなくなり、隼人は通話を終了して身支度を始めた。
『こんな時にトラブルって……勘弁して欲しい』
つい苛立ちから愚痴をこぼしてしまう。普段の隼人なら決してないことだ。
相手が新入社員の菜々子でなければ、電話越しに口頭の指示で終わらせていただろう。
「新入社員さんなら仕方ないよ。私も新人の時に泣きながら上司に電話したことあるもん。隼人の助けが必要なんだよ」
『本当は行って欲しくないくせに。強がるなよ』
コートを羽織った隼人は美月を抱き締めた。無理して送り出そうとする美月の弱々しい笑顔が見ていられない。
「行って欲しくないよ。でも……」
『わかってる。これも上司の務めだ。でも今の俺の最優先は美月だ。美月と子ども達のこと以外、考えられない。正直そんな余裕ない』
足元では美夢がアニマルパズルに夢中になっていた。ゾウの形のパズルを持つ娘を隼人は抱き上げる。
『美夢。ママのこと頼むな。パパがいない間、ママのボディーガードをしてくれよ』
「ぱぁーぱぁー」
隼人をパパと呼んで美夢はきゃっきゃと笑った。父親の言葉を理解していなくても、隼人には美夢が「私に任せて」と言っている気がした。
『じゃあ行ってくる』
「いってらっしゃい」
隼人を送り出して玄関の扉が閉まった時の既視感は、昨日佐藤をここから送り出した時に感じたものだった。
二度と会えないかもしれない不吉な予感。
そんなことあるわけがないと何度首を横に振っても拭い切れない、胸騒ぎの嵐が美月の心に吹き荒れた。