早河シリーズ完結編【魔術師】
病院の朝は早い。時計の針が午前6時を示した頃から看護師が入れ替わり立ち替わり、院内を歩いている。
隼人と美月の警護担当の土屋千秋は病院で夜を明かした。彼女は病院併設のコンビニで買った缶コーヒーを持って、待合室のソファーで眠る同僚の芳賀敬太を見下ろす。
「芳賀さん。起きてください」
『ん……もう朝?』
「6時になりました。コーヒー飲みますか?」
『ああ。……サンキュー。2時間は眠れたな』
片目をこすって芳賀は身体を起こす。彼はあくびをしながら千秋から受け取った缶コーヒーのタブを開けた。
『はぁー……。貴重な2時間の間に変な夢見ちまった』
「どんな夢ですか?」
『上野警視と木村美月がこう……キスしてベッドでいちゃいちゃと……。ああ、いい。これ以上はなんか落ち込む』
芳賀はコーヒーを喉に流し込んだ。乾燥した喉に熱いコーヒーが染みる。
寝ぼけた視界の片隅では、千秋が顔をしかめていた。
「そんな不謹慎な夢見るなんて芳賀さん変態っ!」
『変態って……はいはい、どうせ俺は変態ですよー』
「まだ上野警視と木村美月に何かあると思ってるんですか?」
芳賀は上野と美月の不倫関係を勘ぐって、先輩刑事の杉浦と石川警視正にたしなめられていた。
『別に。でも上野警視も篠山警視も、木村美月のことになると過剰に反応し過ぎなんだよ』
「二人とも過去に色々あったみたいですし、少しの私情が入るのは仕方ないのかもしれませんね。どれにします?」
千秋の持つ袋からはハムカツサンドが出てきた。他にはタマゴロールとクロワッサン、イチゴジャムパンもある。
『サンドイッチもらう』
「はい。私はタマゴロールにしよ」
芳賀はハムカツサンドを選び、嬉々としてタマゴロールの封を開ける千秋を盗み見た。
千秋が警視庁に配属されたのは2年前。芳賀は初対面の頃から千秋に好意を抱いていた。
『そういや土屋は彼氏いる? お前から恋愛の話って聞いたことないな』
「ああ……。私、男に興味ないので」
千秋の発言は、彼女に好意を向ける芳賀にはなかなか衝撃的だった。口元に付いたタマゴロールの具を指で拭った千秋が首を傾げる。
「そんなに変なこと言いました?」
『いや……ちょっとびっくりしたって言うか……』
「女だからって男に興味持たないといけませんか?」
『そうじゃねぇけど……じゃあ男より女が好きとか、そういう……?』
芳賀は何故か手に汗をかいている。どうしてこんなに冷や汗が流れるのか自分でも不思議だ。
千秋は平然とタマゴロールを頬張っていた。
隼人と美月の警護担当の土屋千秋は病院で夜を明かした。彼女は病院併設のコンビニで買った缶コーヒーを持って、待合室のソファーで眠る同僚の芳賀敬太を見下ろす。
「芳賀さん。起きてください」
『ん……もう朝?』
「6時になりました。コーヒー飲みますか?」
『ああ。……サンキュー。2時間は眠れたな』
片目をこすって芳賀は身体を起こす。彼はあくびをしながら千秋から受け取った缶コーヒーのタブを開けた。
『はぁー……。貴重な2時間の間に変な夢見ちまった』
「どんな夢ですか?」
『上野警視と木村美月がこう……キスしてベッドでいちゃいちゃと……。ああ、いい。これ以上はなんか落ち込む』
芳賀はコーヒーを喉に流し込んだ。乾燥した喉に熱いコーヒーが染みる。
寝ぼけた視界の片隅では、千秋が顔をしかめていた。
「そんな不謹慎な夢見るなんて芳賀さん変態っ!」
『変態って……はいはい、どうせ俺は変態ですよー』
「まだ上野警視と木村美月に何かあると思ってるんですか?」
芳賀は上野と美月の不倫関係を勘ぐって、先輩刑事の杉浦と石川警視正にたしなめられていた。
『別に。でも上野警視も篠山警視も、木村美月のことになると過剰に反応し過ぎなんだよ』
「二人とも過去に色々あったみたいですし、少しの私情が入るのは仕方ないのかもしれませんね。どれにします?」
千秋の持つ袋からはハムカツサンドが出てきた。他にはタマゴロールとクロワッサン、イチゴジャムパンもある。
『サンドイッチもらう』
「はい。私はタマゴロールにしよ」
芳賀はハムカツサンドを選び、嬉々としてタマゴロールの封を開ける千秋を盗み見た。
千秋が警視庁に配属されたのは2年前。芳賀は初対面の頃から千秋に好意を抱いていた。
『そういや土屋は彼氏いる? お前から恋愛の話って聞いたことないな』
「ああ……。私、男に興味ないので」
千秋の発言は、彼女に好意を向ける芳賀にはなかなか衝撃的だった。口元に付いたタマゴロールの具を指で拭った千秋が首を傾げる。
「そんなに変なこと言いました?」
『いや……ちょっとびっくりしたって言うか……』
「女だからって男に興味持たないといけませんか?」
『そうじゃねぇけど……じゃあ男より女が好きとか、そういう……?』
芳賀は何故か手に汗をかいている。どうしてこんなに冷や汗が流れるのか自分でも不思議だ。
千秋は平然とタマゴロールを頬張っていた。