早河シリーズ完結編【魔術師】
「少し違いますね。男だとか女だとか、まず性別に興味がないです。でも普通に、男友達も女友達もいますよ。恋愛感情の意味での男性には興味がありませんし、レズビアンの自覚もないです。だけど天馬杏樹《てんま あんじゅ》さんは好きですね」
『てんまあんじゅ? ……誰? 芸能人?』
それまで平然としていた千秋が明らかに不快な顔で眉を寄せた。
芳賀はやけくそでハムカツサンドに食らい付く。知らないものは知らないのだから仕方ない。
「天馬杏樹さんは宝塚宙組トップの方ですよ。知らないんですか?」
『悪い、宝塚詳しくなくて……えっと、その人は男役?』
宝塚に詳しくはない芳賀でも宝塚の劇団員が全員女性で、男役と女役に分かれていることは一般常識の範囲で知っている。
「男役です。舞台で見る杏樹様は凛々しくて格好よくて! 惚れ惚れしちゃいます」
『男には興味ないけど、女の男装には興味持てるってこと?』
「そうですね。女がキリッとした佇まいや男性らしい仕草をするのが好きなのかも。男が男の役を演じても当たり前で面白くないでしょう?」
芳賀には理解できない話だ。意図しない方向に話題が展開している。こんなはずではなかったのに。
『なら男の女装にもときめいたりは……』
「しないです。私は女が男役をやるからときめくだけです」
千秋の答えは即答だった。彼女はタマゴロールを食べ終えて次のイチゴジャムパンに手を伸ばしている。
「なんか缶コーヒーの味ってどれも同じですよね」
『そうか? 俺は味にこだわらないから』
「大学時代にバイトしていたカフェのマスターが淹れるコーヒーがとっても美味しかったんです。また飲めたらいいのに、その店は閉店になっちゃったんですよ。二度と飲めないからたまに恋しくなるのかな」
千秋は缶コーヒーを飲み干してイチゴジャムパンを一口かじった。芳賀の手には食べかけのハムカツサンドがまだ残っていた。
『てんまあんじゅ? ……誰? 芸能人?』
それまで平然としていた千秋が明らかに不快な顔で眉を寄せた。
芳賀はやけくそでハムカツサンドに食らい付く。知らないものは知らないのだから仕方ない。
「天馬杏樹さんは宝塚宙組トップの方ですよ。知らないんですか?」
『悪い、宝塚詳しくなくて……えっと、その人は男役?』
宝塚に詳しくはない芳賀でも宝塚の劇団員が全員女性で、男役と女役に分かれていることは一般常識の範囲で知っている。
「男役です。舞台で見る杏樹様は凛々しくて格好よくて! 惚れ惚れしちゃいます」
『男には興味ないけど、女の男装には興味持てるってこと?』
「そうですね。女がキリッとした佇まいや男性らしい仕草をするのが好きなのかも。男が男の役を演じても当たり前で面白くないでしょう?」
芳賀には理解できない話だ。意図しない方向に話題が展開している。こんなはずではなかったのに。
『なら男の女装にもときめいたりは……』
「しないです。私は女が男役をやるからときめくだけです」
千秋の答えは即答だった。彼女はタマゴロールを食べ終えて次のイチゴジャムパンに手を伸ばしている。
「なんか缶コーヒーの味ってどれも同じですよね」
『そうか? 俺は味にこだわらないから』
「大学時代にバイトしていたカフェのマスターが淹れるコーヒーがとっても美味しかったんです。また飲めたらいいのに、その店は閉店になっちゃったんですよ。二度と飲めないからたまに恋しくなるのかな」
千秋は缶コーヒーを飲み干してイチゴジャムパンを一口かじった。芳賀の手には食べかけのハムカツサンドがまだ残っていた。