早河シリーズ完結編【魔術師】
 〈掲示板〉ページに移動して管理人のダンタリオンとページを訪れたゲストのやりとりを順に追う。なぎさは2年前の2016年のページを開いた。
11月のページには、管理人〈ダンタリオン〉とゲスト〈バルバトス〉の会話が綴られている。


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 ダンタリオン:キングは裏切られたんだ
 バルバトス:誰に?
 ダンタリオン:クイーンにだ。クイーンが警察と手を組んでキングを裏切った。だからカオスは崩壊したんだ
 ___________


 犯罪組織カオスのクイーンだった寺沢莉央が9年前に警察……正しくは早河と手を組み、カオスの情報を早河側に流して貴嶋を裏切ったことは、世間には公表されていない。

それを知るのは当時の警察関係者と政府、早河となぎさ、矢野。民間人では木村隼人と美月、なぎさと莉央の友人の麻衣子のみだ。
貴嶋の熱狂的信者であっても、ここまでの情報は知り得ない。

(どうしてダンタリオンが莉央のことを知っているの?)

 ダンタリオンの書き込みを注意深く閲覧していたなぎさは、ある事実に気付いた。2年前の10月以降、ダンタリオンは貴嶋や警察の内部情報に詳しくなっている。
それは貴嶋の脱獄時期と重なっていた。

(もしかしたらダンタリオンは……)

ひとつの仮説が浮かんだ。佐藤瞬が掴んできた情報を合わせれば、仮説は立証される。

 全身に感じる悪寒になぎさは腕を抱き込んだ。
誰を信じて誰を疑えばいい?
誰が敵で誰が味方? もうわからない。

『ただいま』

 早河の声が玄関から聞こえた。急いで玄関に向かったなぎさは、冬の匂いを纏う彼に抱きついた。

「……お帰りなさい」
『どうした? 何かあったか?』

なぎさを出迎える早河の身体は冷えきっていて冷たい。肩にはうっすら雪がついていた。
彼女はかぶりを振って、早河の胸元から顔を上げる。

「……身体、冷えてるよ」
『なぎさが温めてくれる?』

 早河の手がなぎさの頬に触れる。そのまま二人はキスをした。彼の冷えた唇がなぎさの体温と溶け合って温まってゆく。

でも温められているのはなぎさの方だ。
早河の腕に包まれていると心が温かくなる。込み上げる虚しさや怒りも、不安も恐怖も早河のぬくもりが包み込んでくれた。

「すぐにお風呂の用意するね」
『ああ。久しぶりに一緒に入ろう』

 真愛が産まれる前まではよく二人でバスタイムを楽しんでいた。真愛が産まれてからはなぎさは真愛と二人の入浴が多くなり、夫婦のバスタイムは久しぶりだ。
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