早河シリーズ完結編【魔術師】
意識を取り戻してICUから個室に移された隼人の病室に捜査本部指揮官の篠山恵子と刑事達が集まり、物々しい雰囲気の中で隼人の事情聴取が始まった。
隼人は完全に容態が安定したとは言えず、事情聴取には医師が立ち会っている。医師と警察関係者以外の者は、強制的に病室の外に出された。
隼人はベッドに寝たまま、とつとつと言葉を紡いで襲われた時の状況を説明した。
「ではあなたを襲った男は佐藤瞬ではないと言うのね?」
恵子の追及に隼人は物怖じせずに頷き返す。言葉は途切れ途切れだが、恵子を見据える隼人の瞳は力強い。
「犯人は目出し帽を被っていたのよ。顔を見ていないのに佐藤じゃないと断言できますか?」
『確かに顔は見ていません。でも犯人の体格は明らかに佐藤とは違いました。俺を襲った奴は佐藤よりも小柄です』
事件現場に居た坂下菜々子も隼人を襲った人物は隼人よりも身長が低かったと証言している。
「そう。ですが木村さん。あなたが襲われた直後にあなたの会社の非常階段から佐藤らしき男が降りてきたと警備員の証言があるの。これについてはどう考えます?」
『さぁ……。佐藤があそこにいた可能性もありますが、でも俺を襲った男は佐藤じゃありません』
疲れが出てきた隼人は額に汗を浮かべている。医師が恵子に目配せして聴取の終了を訴えかけた。
恵子は医師の視線を知ってか知らずか、尋問を続けた。
「佐藤にはあなたを殺す動機があります。あなたも大事な奥様のためなら佐藤を庇おうとするのでは?」
『……篠山さん。あなたは何もわかっていない』
隼人は息苦しそうに溜息をついた。
『佐藤がどれだけ美月を大切に想っているか、俺は知ってる。あいつは美月を苦しめることはしない。俺も佐藤を庇うなんて馬鹿な真似はしない。俺が佐藤を庇うことは美月を傷付けることになる。この意味があなたにわかりますか?』
一気に言い終えて彼は呼吸を整える。
『馬鹿馬鹿しいと思われるでしょうが、俺も佐藤も本気で美月を愛してる。俺達への変な勘繰りは止めていただきたいですね』
恵子に対してここまで発言できる人間は捜査本部にはいない。同席した刑事達は緊迫の空気に固唾を呑んだ。
「……わかりました」
表情を変えずに恵子は腰を上げた。刑事達を引き連れて彼女は病室を後にする。
廊下の奥の待合室に隼人の両親と美月の姿があった。美月はおもちゃで遊ぶ娘の相手をしている。
恵子と美月の視線が交わった。先に会釈する美月に恵子も形ばかりの会釈を返して、彼女は美月に背を向けた。
隼人は完全に容態が安定したとは言えず、事情聴取には医師が立ち会っている。医師と警察関係者以外の者は、強制的に病室の外に出された。
隼人はベッドに寝たまま、とつとつと言葉を紡いで襲われた時の状況を説明した。
「ではあなたを襲った男は佐藤瞬ではないと言うのね?」
恵子の追及に隼人は物怖じせずに頷き返す。言葉は途切れ途切れだが、恵子を見据える隼人の瞳は力強い。
「犯人は目出し帽を被っていたのよ。顔を見ていないのに佐藤じゃないと断言できますか?」
『確かに顔は見ていません。でも犯人の体格は明らかに佐藤とは違いました。俺を襲った奴は佐藤よりも小柄です』
事件現場に居た坂下菜々子も隼人を襲った人物は隼人よりも身長が低かったと証言している。
「そう。ですが木村さん。あなたが襲われた直後にあなたの会社の非常階段から佐藤らしき男が降りてきたと警備員の証言があるの。これについてはどう考えます?」
『さぁ……。佐藤があそこにいた可能性もありますが、でも俺を襲った男は佐藤じゃありません』
疲れが出てきた隼人は額に汗を浮かべている。医師が恵子に目配せして聴取の終了を訴えかけた。
恵子は医師の視線を知ってか知らずか、尋問を続けた。
「佐藤にはあなたを殺す動機があります。あなたも大事な奥様のためなら佐藤を庇おうとするのでは?」
『……篠山さん。あなたは何もわかっていない』
隼人は息苦しそうに溜息をついた。
『佐藤がどれだけ美月を大切に想っているか、俺は知ってる。あいつは美月を苦しめることはしない。俺も佐藤を庇うなんて馬鹿な真似はしない。俺が佐藤を庇うことは美月を傷付けることになる。この意味があなたにわかりますか?』
一気に言い終えて彼は呼吸を整える。
『馬鹿馬鹿しいと思われるでしょうが、俺も佐藤も本気で美月を愛してる。俺達への変な勘繰りは止めていただきたいですね』
恵子に対してここまで発言できる人間は捜査本部にはいない。同席した刑事達は緊迫の空気に固唾を呑んだ。
「……わかりました」
表情を変えずに恵子は腰を上げた。刑事達を引き連れて彼女は病室を後にする。
廊下の奥の待合室に隼人の両親と美月の姿があった。美月はおもちゃで遊ぶ娘の相手をしている。
恵子と美月の視線が交わった。先に会釈する美月に恵子も形ばかりの会釈を返して、彼女は美月に背を向けた。