早河シリーズ完結編【魔術師】
その後、上野が手配したレッカー車と警察車両が到着して現場検証となった。雪の舞う中、一通りの事情説明を終えた早河は顔見知りの刑事の車で家まで送り届けられた。
顔を青ざめさせたなぎさが出迎えてくれる。
「連絡もらってびっくりしたよ! 怪我は?」
『割れたガラスで少し切っただけ』
早河の右手には包帯が巻かれていた。それを見たなぎさは涙を浮かべて彼に抱きついた。
「もう。怖かった……。もし撃たれていたらって思ったら……」
『心配させてごめん。大丈夫だから』
泣き出したなぎさをなだめて二人はソファーに落ち着く。数時間前に家を出た時には回復していた身体にまた疲労が蓄積していた。
『車がないと動き辛いな……。タケさんに新しい車用立ててもらうか』
「今、外に出るのは危ないかな……? 気になることがあって。それを確かめるために実家に行きたいの。実家には私が引き取った莉央の遺品が保管してあるでしょ? その中に見たいものがあって……」
莉央の遺品はなぎさと、莉央の母親の友人でキャバレーのママのみき子、莉央の父親の家で家政婦をしていた仙道トメの三人で分け合った。
『どうしても今じゃないとダメなんだな?』
「うん。貴嶋が持っていた家のことが書いてあった気がするの。勘違いかもしれないし、無駄骨かもしれないけど……」
早河はなぎさの顔を見つめる。現状ではなぎさを外に出すのは危険だ。彼女はそれを承知で早河に懇願していた。
早河はスマートフォンを取り出した。選択した電話番号は現在の内閣官房長官である武田健造の私用の携帯電話。
秘書ではなく武田本人が電話に出た。
『タケさん? ……あー、はいはい。忙しいのはわかってる。でもこっちも急用なんだ』
武田のボヤキを受け流して、使用可能な車の用意を至急頼んだ。それから警察庁の阿部警視監と連絡を取る。
各方面への電話連絡を済ませた早河は立ち上がった。
『今から実家行くぞ』
「でも車は?」
『阿部警視監の部下が送り迎えしてくれるそうだ。ちゃんと警護もついてる。安心しろ』
“安心しろ” どんな強固なセキュリティや万全な警備よりも、早河が言ってくれる一言がなぎさには何よりも頼もしかった。
武田官房長官に借りた車に乗り込み、早河となぎさは14時に中野区の自宅を出発した。
助手席のなぎさはローズ色のカバーのかかる手帳を持っていた。手帳の中身は日記。寺沢莉央の遺品のひとつだ。
9年前に莉央の遺品を引き取った時に少しだけ日記を閲覧した。日記は2006年から2009年までの4年分。
故人の日記を詳しく読むことは友人であっても憚《はばか》られ、当時はページをめくる程度に留めていた。それでもいくつかの印象的な記述が記憶の欠片に残っている。
顔を青ざめさせたなぎさが出迎えてくれる。
「連絡もらってびっくりしたよ! 怪我は?」
『割れたガラスで少し切っただけ』
早河の右手には包帯が巻かれていた。それを見たなぎさは涙を浮かべて彼に抱きついた。
「もう。怖かった……。もし撃たれていたらって思ったら……」
『心配させてごめん。大丈夫だから』
泣き出したなぎさをなだめて二人はソファーに落ち着く。数時間前に家を出た時には回復していた身体にまた疲労が蓄積していた。
『車がないと動き辛いな……。タケさんに新しい車用立ててもらうか』
「今、外に出るのは危ないかな……? 気になることがあって。それを確かめるために実家に行きたいの。実家には私が引き取った莉央の遺品が保管してあるでしょ? その中に見たいものがあって……」
莉央の遺品はなぎさと、莉央の母親の友人でキャバレーのママのみき子、莉央の父親の家で家政婦をしていた仙道トメの三人で分け合った。
『どうしても今じゃないとダメなんだな?』
「うん。貴嶋が持っていた家のことが書いてあった気がするの。勘違いかもしれないし、無駄骨かもしれないけど……」
早河はなぎさの顔を見つめる。現状ではなぎさを外に出すのは危険だ。彼女はそれを承知で早河に懇願していた。
早河はスマートフォンを取り出した。選択した電話番号は現在の内閣官房長官である武田健造の私用の携帯電話。
秘書ではなく武田本人が電話に出た。
『タケさん? ……あー、はいはい。忙しいのはわかってる。でもこっちも急用なんだ』
武田のボヤキを受け流して、使用可能な車の用意を至急頼んだ。それから警察庁の阿部警視監と連絡を取る。
各方面への電話連絡を済ませた早河は立ち上がった。
『今から実家行くぞ』
「でも車は?」
『阿部警視監の部下が送り迎えしてくれるそうだ。ちゃんと警護もついてる。安心しろ』
“安心しろ” どんな強固なセキュリティや万全な警備よりも、早河が言ってくれる一言がなぎさには何よりも頼もしかった。
武田官房長官に借りた車に乗り込み、早河となぎさは14時に中野区の自宅を出発した。
助手席のなぎさはローズ色のカバーのかかる手帳を持っていた。手帳の中身は日記。寺沢莉央の遺品のひとつだ。
9年前に莉央の遺品を引き取った時に少しだけ日記を閲覧した。日記は2006年から2009年までの4年分。
故人の日記を詳しく読むことは友人であっても憚《はばか》られ、当時はページをめくる程度に留めていた。それでもいくつかの印象的な記述が記憶の欠片に残っている。