早河シリーズ完結編【魔術師】
なぎさの記憶には10年前の2008年10月の記述が印象深く刻まれていた。莉央の誕生日の前日の日記だ。
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10月2日(木) ここは生まれ育った北海道の景色に似ていて懐かしさを感じた。
森の匂い、川のせせらぎ、空気も澄んで気持ちいい。
あと1週間もすれば金木犀の香りに包まれるのかな。
キングはこの別荘をモクセイカンと名付けていた。金木犀の館だから「木犀館」なんだって。
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貴嶋が逮捕される9年前まで所有していた東京港区の自宅と横須賀の別荘は警察が突き止めている。莉央の日記にある木犀館とは横須賀の別荘なのだろうと当時は思っていた。
だが、なぎさは横須賀ではない別の地名を日記で目にしていた。
その記憶を確かめたくて莉央の日記を探しに早河と共に実家に向かった。
木犀館の記述が現れた1ヶ月後、11月の日記になぎさの記憶を補完する地名を見つけた。
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11月17日(月) 都会の雑踏は苦手。東京も横浜も私には向かない。だけど鎌倉は好き。
木犀館のあるあの場所の空気が好き。
またあそこに行きたい。
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莉央の日記から木犀館は鎌倉にあると推測できた。木犀館が警察にも知られていない隠れ家ならば、そこに誘拐された真愛と斗真が監禁されているかもしれない。
信号待ちで早河はガラスの破片で負傷した右手をさすった。怪我をした利き手のハンドル操作は辛そうだ。
「運転代わろうか?」
『これくらいどうってことない。キツかったら鎌倉入った辺りで変わってくれると助かる』
「わかった。無理しないでね」
車は首都高を走行して神奈川方面に向かっている。東京から鎌倉までは通常は車で1時間半ほど。
生憎《あいにく》の雪模様で道路が渋滞していたため、2時間かけて二人は鎌倉に到着した。
鎌倉幕府で有名な街、神奈川県鎌倉市は南を相模湾、北、西、東の三方を山に囲まれている。
予約した鎌倉市内のホテルに16時半にチェックインした。途中で運転を代わったなぎさを部屋で休ませて、早河はロビーに降りる。
早河も本音は雪道の運転で疲れた身体を労いたいが、鎌倉滞在の目的は休暇でも観光でもない。
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10月2日(木) ここは生まれ育った北海道の景色に似ていて懐かしさを感じた。
森の匂い、川のせせらぎ、空気も澄んで気持ちいい。
あと1週間もすれば金木犀の香りに包まれるのかな。
キングはこの別荘をモクセイカンと名付けていた。金木犀の館だから「木犀館」なんだって。
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貴嶋が逮捕される9年前まで所有していた東京港区の自宅と横須賀の別荘は警察が突き止めている。莉央の日記にある木犀館とは横須賀の別荘なのだろうと当時は思っていた。
だが、なぎさは横須賀ではない別の地名を日記で目にしていた。
その記憶を確かめたくて莉央の日記を探しに早河と共に実家に向かった。
木犀館の記述が現れた1ヶ月後、11月の日記になぎさの記憶を補完する地名を見つけた。
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11月17日(月) 都会の雑踏は苦手。東京も横浜も私には向かない。だけど鎌倉は好き。
木犀館のあるあの場所の空気が好き。
またあそこに行きたい。
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莉央の日記から木犀館は鎌倉にあると推測できた。木犀館が警察にも知られていない隠れ家ならば、そこに誘拐された真愛と斗真が監禁されているかもしれない。
信号待ちで早河はガラスの破片で負傷した右手をさすった。怪我をした利き手のハンドル操作は辛そうだ。
「運転代わろうか?」
『これくらいどうってことない。キツかったら鎌倉入った辺りで変わってくれると助かる』
「わかった。無理しないでね」
車は首都高を走行して神奈川方面に向かっている。東京から鎌倉までは通常は車で1時間半ほど。
生憎《あいにく》の雪模様で道路が渋滞していたため、2時間かけて二人は鎌倉に到着した。
鎌倉幕府で有名な街、神奈川県鎌倉市は南を相模湾、北、西、東の三方を山に囲まれている。
予約した鎌倉市内のホテルに16時半にチェックインした。途中で運転を代わったなぎさを部屋で休ませて、早河はロビーに降りる。
早河も本音は雪道の運転で疲れた身体を労いたいが、鎌倉滞在の目的は休暇でも観光でもない。