訳アリママですが、敏腕パイロットに息子ごと深愛を注がれています。
「もう気は済んだか? 陽鞠」
何も言えずにいる陽鞠に対し、淪太郎は冷たく言い放つ。
「お前もたまには羽根を伸ばしたいだろうと思って好きにさせていたんだ。もう充分楽しんだよな?」
「……わかっていて私を野放しにしていたんですか?」
「お前の居場所なんてすぐに突き止められる。最後だろうし、好き勝手させてやろうと思ったんだ」
そう言うと淪太郎はスーツの胸ポケットから一枚の紙を取り出し、ぴらりと見せる。
それは陽鞠が置いて行った記入済の離婚届だった。
「これ、書いておいた」
その離婚届には淪太郎の名前もしっかりと記入されていた。
「これもやろう」
「な、なんですかその分厚い封筒……」
「口止め料だ」
淪太郎は感情のこもっていない淡々とした口調で答える。
「俺が無精症だということは黙っておいてもらいたい」
「そんなこと、お金なんかなくても誰にも言いません」
「それと、叶空は俺が引き取る」
「え……?」
「お前はいらんが、叶空は大事な跡取りだ」
目眩がしそうになったが、何とか立っていた。叶空を抱いているのだから倒れるわけにはいかなかった。
陽鞠は声を震わせながら尋ねる。
「何を言ってるんですか……? 叶空は私の子です」
「俺に子どもが作れない以上叶空は必要だ。安心しろ、口止め料は頭金で後から口座にも振り込んでやる」