冷徹ドクターは初恋相手を離さない
「今回手術目的での入院とのことですが、何か疑問に思っていることなどはありますか?」
「うーん、そうねぇ……特にこれといった不安なことはないけれど、やっぱり全身麻酔での手術ってのは漠然とした不安があるかな。自分の胸がなくなってしまうことはだいぶ受け入れられたはずなのだけどね。いざそうなってみた時、どう思うのかな、とかね」
「そうなのですね。やっぱり手術を受けるのは怖いですよね。そして、自分の胸がなくなってしまうのもつらいですよね」
「そうね。あ、この話をして思い出したわ。担当の先生、荒木先生っていうんだけどね、あの先生とは何か話した?」
「え、あ!? はい、すこしだけ」
急に荒木先生の話題を振られてしまい、変な声が出てしまった。
「もう一人、乳腺外科の先生がいるんだけど、私は荒木先生だったのよね。なんか噂では冷たい先生だとか言われていたから最初はどんなヤツなのか怖かったのよ」
吉村さんは笑いながら私に荒木先生への思いを伝えてくれる。
やっぱり患者さんの間でもそんな噂が流れていたんだ……。
「それで、覚悟はしていたけれど『がんです』って先生から言われちゃうとやっぱり落ち込むじゃない? なのに淡々と治療方針の話だとかスケジュールの話だとかを話してしまうもんだから、外来の看護師さんに止められてたのよ、ふふっ」
本当の荒木先生って人の心に寄り添わない冷たい人なのだろうか。私にはそんな人には見えなかったから、驚きの情報だ。
「術式の説明の時も、『片側の胸がなくなります。』とかズバッと言われてさ。さすがにその時はキレそうになったよね。いやわかってるよ! って。はははっ、今となっては面白い話なんだけどね」
「そんなことを言われたんですね……たしかに、もう少しふんわりと伝えてほしいですよね」
「先生も悪気があったわけじゃないんだけどね。とても熱心な先生だしね。あんなに患者を抱えているのに、私が話していたどんなことだって覚えているんだもの」
「そうなんですか?」
「そうそう。だから、なんだかんだで、荒木先生でよかったって思っているのよ。この先生になら任せられるって。手術も荒木先生がしてくれる予定よ」
「そうなのですね。荒木先生と吉村さんとのエピソードを知れてとても嬉しいです。お話ししてくださってありがとうございます」
「いいえ~。私も、おしゃべりしていると気が紛れていいわ。明日の手術にそわそわしちゃってね」
吉村さんは少し眉間に皺を寄せて、外の風景を見ながら呟いていた。
きっと手術を受けることって怖いことだと思う。患者さんたちはみんな希望を持ってここに来ている。
そんな患者さんに対して、私は何ができるのか? まだまだ答えはわからない。
「あ、そろそろ約束の時間ね。じゃあ一緒に行きましょうか」
「はい」
私たちは術前ICのために病棟のカンファレンスルームへと向かう。学生控室として普段私が使っている部屋の隣がカンファレンスルームだ。
部屋の前にいると、今日の担当である藤野さんがいた。
「うーん、そうねぇ……特にこれといった不安なことはないけれど、やっぱり全身麻酔での手術ってのは漠然とした不安があるかな。自分の胸がなくなってしまうことはだいぶ受け入れられたはずなのだけどね。いざそうなってみた時、どう思うのかな、とかね」
「そうなのですね。やっぱり手術を受けるのは怖いですよね。そして、自分の胸がなくなってしまうのもつらいですよね」
「そうね。あ、この話をして思い出したわ。担当の先生、荒木先生っていうんだけどね、あの先生とは何か話した?」
「え、あ!? はい、すこしだけ」
急に荒木先生の話題を振られてしまい、変な声が出てしまった。
「もう一人、乳腺外科の先生がいるんだけど、私は荒木先生だったのよね。なんか噂では冷たい先生だとか言われていたから最初はどんなヤツなのか怖かったのよ」
吉村さんは笑いながら私に荒木先生への思いを伝えてくれる。
やっぱり患者さんの間でもそんな噂が流れていたんだ……。
「それで、覚悟はしていたけれど『がんです』って先生から言われちゃうとやっぱり落ち込むじゃない? なのに淡々と治療方針の話だとかスケジュールの話だとかを話してしまうもんだから、外来の看護師さんに止められてたのよ、ふふっ」
本当の荒木先生って人の心に寄り添わない冷たい人なのだろうか。私にはそんな人には見えなかったから、驚きの情報だ。
「術式の説明の時も、『片側の胸がなくなります。』とかズバッと言われてさ。さすがにその時はキレそうになったよね。いやわかってるよ! って。はははっ、今となっては面白い話なんだけどね」
「そんなことを言われたんですね……たしかに、もう少しふんわりと伝えてほしいですよね」
「先生も悪気があったわけじゃないんだけどね。とても熱心な先生だしね。あんなに患者を抱えているのに、私が話していたどんなことだって覚えているんだもの」
「そうなんですか?」
「そうそう。だから、なんだかんだで、荒木先生でよかったって思っているのよ。この先生になら任せられるって。手術も荒木先生がしてくれる予定よ」
「そうなのですね。荒木先生と吉村さんとのエピソードを知れてとても嬉しいです。お話ししてくださってありがとうございます」
「いいえ~。私も、おしゃべりしていると気が紛れていいわ。明日の手術にそわそわしちゃってね」
吉村さんは少し眉間に皺を寄せて、外の風景を見ながら呟いていた。
きっと手術を受けることって怖いことだと思う。患者さんたちはみんな希望を持ってここに来ている。
そんな患者さんに対して、私は何ができるのか? まだまだ答えはわからない。
「あ、そろそろ約束の時間ね。じゃあ一緒に行きましょうか」
「はい」
私たちは術前ICのために病棟のカンファレンスルームへと向かう。学生控室として普段私が使っている部屋の隣がカンファレンスルームだ。
部屋の前にいると、今日の担当である藤野さんがいた。