冷徹ドクターは初恋相手を離さない

「あ、ごはん食べなきゃ」
　すっかり湯気も収まった料理たちを見て、私は美味しいと味わう余裕もなく、ただひたすら口に放り込んでいくように食べる。
(どう返すのが正解？　どうしたらいいの……)
　頭で考えても何もいい案が出てこない。
　しばらく返事を考えることを放棄してごはんを食べることに集中していると、またメッセージが来た。
『忘れているならそれでもいい。それに俺は君のことをもっと知りたいと思った。君も俺のことを知っていけば、思い出せるかもしれないのでは？』
　先生が追加したそのメッセージを読んだ私は、生まれてはじめて『恋に落ちる』という感覚がわかった気がした。
　それは突然に訪れて、心を奪われてしまう。まるで魔法にでもかかったかのような。気づけば私は、何度もそのメッセージを読み返していた。
「私ももっと荒木先生のことが知りたいです。私の偽装彼氏として、今の交際相手……裕太と別れるために協力してください。よろしくお願いします」
　そう返事をすると、すぐに既読がついて心臓が飛び出そうになる。
　荒木先生は可愛いスタンプで『はい！』と送ってきた。こんなスタンプも使うのかと思うとちょっと可愛くて、くすっと笑ってしまう。
　今の自分ができる範囲で考えた返事を送り、どくどくとうるさく脈打つ心臓に手を当てて押さえながら、私は明日のための勉強に取りかかった。