冷徹ドクターは初恋相手を離さない
 それから一時間後、荒木先生の宣言通りがんは無事に摘出され、予定時間より少し早めに終了した。
 摘出した部位はポリ袋に入れてトレーに載せた状態で冷蔵保存されて、患者が希望するのであれば術後に見せるそうだ。
 手術が終わり、私はオペ室に挨拶をしてユニフォームに着替えて手術室から離れた。
(貴重な体験だったな)
 手術室に入ることなんてこれ以降ほぼないだろう。
 こうして私は、昼休憩後は回復室で術後観察をされている吉村さんを観察しつつ、もう一人の受け持ち患者さんである村田さんへの看護もしながら過ごした。忙しすぎて一瞬で一日が終わったような感覚だった。
 翌日からはふたりとも回復期となるため、術後日数に合わせた術後合併症の出現に気を配りながら退院後の生活に向けたリハビリや指導、他職種との連携もできるように情報収集もして、看護師さんと相談、調整しながら毎日よりよい看護を提供できるように取り組んだ。
 吉村さんには手術が無事終わったことや手術はとてもスムーズで感動したことを伝えた。
 手術中の吉村さんに優しく声をかけていたことはなんだか言ってはいけない気がして言うことはできなかったけれど、『患者思いの先生だということがわかりました』と話したら、吉村さんは嬉しそうに『そうでしょ?』と言ってくれた。
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