冷徹ドクターは初恋相手を離さない
「アイスコーヒーとホットケーキをひとつ」
 荒木先生は私の目の前に座って、店員さんに注文すると、私の顔を見つめてきた。
(何この状況?!)
 スクラブに白衣を羽織っている医師としての姿とは全く違う印象。
 白のスラックスにネイビーの無地のTシャツ。レザーシューズを履いていてシンプルなのにカジュアルすぎないコーディネートだ。
「偶然だね。葉山さん」
「え、えっと。そうですね」
 荒木先生とは対称に私はガチガチに固まった表情だろう。
「あの、どうして先生がここに?」
 何とかこの場を繋げようと、私は当たり障りのない質問をする。
「今日はオフなんだ。どこかカフェに行こうとしてSNSで探していたら、ここのホットケーキが美味しそうだったから来てみたんだ」
「そうなんですね」
 意外な一面だ。荒木先生も甘いものを食べるなんて思わなかった。やはり外見で人を判断してはいけない。
「正直に言うと、君とのデートのための下見だったんだけどね。君もここを知っていたとはな」
「えっ?」
「だって俺たち、『恋人』だろ? なあ、詩織」
 『恋人』とわざとらしく強調するような言い方をして、にやりといたずらっぽく笑う荒木先生。表情があまり変わらない普段のクールな表情からは想像できないほどの無邪気な笑み。
 私はこのシチュエーションに耐えられず、顔が真っ赤になっているのを隠すために俯いた。荒木先生はそんな私を見て、ふふ、と笑いながら面白そうにしている。
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