冷徹ドクターは初恋相手を離さない
「証拠だってある。ほら。今はもう消しているみたいだけど、スクリーンショットをしておいたの。あと、私の知り合いが裕太とその女性がラブホに入っていくところを見たって言ってる」
 証拠写真を裕太に見せるがなかなか画面を見ようとしない裕太。その様子にしびれを切らした夏美さんがスマホを手に取り、『浮気証拠』と名付けたアルバムの画像をじっくり見ている。
「うわ……ゲスじゃん」
 夏美さんは棘のある言葉で裕太を刺していく。私も言いたいところだけれどあくまで感情に流されず冷静に。
 直哉さんは腕を組んで一歩後ろから裕太をじっと見ている。
「どんな嘘をついてももう遅いよ。今までも、気づいていなかったんじゃない。気づかないふりをしていたの。裕太との関係を壊したくなくて、私が耐えればいいだけだと思っていたから」
 ありのままの本音を裕太に伝える。
 人通りの少ない場所とはいえ、何人か近くを通っているけれど、そんなことは気にならないくらい目の前の敵を仕留めることに集中していた。
「詩織が忙しいからそっとしておいてあげようと思って……それで」
「言い訳なんていらない。結婚のことを相談した時から私と距離を置いていたじゃない。それに、裕太はもともと私の心に寄り添おうとしてくれなかった。私が不快に思っていた裕太の発言とか態度も、言い出せなかった私が悪いかもしれない。でも、もう少し私がどう思うのかなとかふり返ってほしかった。私がつらい時は、支えてほしかった。私はそうしてきたつもりだったのに。裕太は支えるどころか、よその女性と浮気して楽しんでいたんだからね。そんなあなたとは幸せな未来なんて望めない。だから、別れて!」
 私は思いっきり大きな声で泣くのを我慢しながら叫ぶように裕太に言い放った。そのせいで荒い呼吸をゼェゼェとしながら、裕太の反応を伺う。
 これが私の全力。今までこんなにも本音を裕太どころか他人に話したことなんてなかった。
「詩織……い、いや! そんなの言われなきゃわかんねぇだろ! なのになんで急に別れるってことになるんだ!」
 怒りを抑えきれないで反省の態度がまるでない裕太の様子に、私はゾッとする。
 私の言葉や気持ちがまったく通じていないのかもしれない。そして、自分が悪かったと認められないのだ。
 そして、私が言い返したことに対して怒っているのだとしたら、仮に結婚していたとしても幸せな家庭を築けなかっただろう。場合によっては家庭内暴力を受けていたかもしれないと思えた。
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