冷徹ドクターは初恋相手を離さない

『結婚はまだ考えられないや。ごめん』

　二十代後半になって、年齢のことを考えたらそろそろ結婚したかった。
　私にとって結婚は大事なことだったから、将来を共にしたいと真剣に考えていた裕太に相談した。
　でも、裕太は結婚なんてまだ考えられないと言った。
　同い年だし、もしかしたら私と同じように結婚する未来を考えていたりするんじゃないかと勘違いしていた。勝手にそう思って、私だけが幸せな夢を思い描いていたのだ。
　その相談をきっかけに、私たちはすれ違いが多くなった気がする。お互いの結婚に関する価値観が合わなかったのだ。仕方ないと思うしかない。
「いやでもこの年齢で付き合っていたら結婚するかもって思うじゃない！　ねえ！？」
　私は抱いていたクッションに顔を埋めて大声で叫んだ。これが最近のストレス発散方法だ。
「こうなったら徹底的にやってやる！」
　裕太のアカウントをミュートして、連絡先も非表示にすることができた。今までは何度もやろうと思ってもできなかったのに。どうしてだろう？
　なんだか今日の私は、生まれ変わったみたいに思えた。
　すると自然と、明日に備えて穏やかな気持ちで勉強に向かえた。
　明日からの実習は後悔のないように頑張らなきゃ。

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