冷徹ドクターは初恋相手を離さない

第2話

「おはようございます。本日もよろしくお願いします」

 私は世愛総合病院という神奈川県の県庁所在地である横須磨市にある、県の高度医療を担っている病院の六階病棟に配属されている。
 世愛総合病院の歴史は古く、県民の誰もが知っている病院だ。
 そして、この世愛総合病院は世愛会という一般財団法人が運営していて、この病院のほかにも訪問看護ステーション、介護老人保健施設、居宅介護支援事業所等の医療福祉に関連する施設も有する。
 そんな世愛総合病院の六階病棟は、消化器外科と乳腺外科の混合病棟。手術目的で入院をする患者さんが多い急性期の病棟である。

(忙しそうだな……)
 病棟に到着してすぐにナースステーションに向かって挨拶をするが、日勤が始まる前の情報収集や処置の準備などで忙しい時間帯のため全員挨拶を返してくれることは滅多にない。その様子を見た新人看護師さんや比較的余裕のある看護助手さんだけが軽く会釈をしてくれたのが救いだ。
 返らない挨拶を待つことはせずそそくさと学生控室に向かおうとすると、師長さんがナースステーションの奥から手を振ってこちらに向かってきた。
 
「葉山さんおはよう! 先週から引き続きうちの病棟ね。今週からは統合実習だから、受け持ち患者さんが二人になって難しいこともあると思うけど、何かわからないことがあったらすぐに指導看護師に聞いてね」
「はい。わかりました、ありがとうございます」
 この病棟では八時十五分から朝の申し送りがはじまる。それまで私は学生控室に用意された学生用パソコンで受け持ち患者さんの情報収集をする。
 先週のうちに受け持ち患者さんを決めていて、今日は初対面の日だ。挨拶や同意をもらうなど今までは引率してくれていた学校の実習担当教員の先生がやってくれていたものも自分でこなす。
 それが最終学年の最後の実習だ。
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