冷徹ドクターは初恋相手を離さない

第11話

「あれ、私、寝て……?」
 気がついて目が醒めて時計を見ると、一時間近く眠っていたようだった。
 たしか床に寝たはずだったのにベッドの近くにあったソファに移動され、ブランケットがかけられていた。私が身体を冷やさないように直哉さんがかけてくれたのだろう。
「これ、ありがとうござました」
 私は広縁で本を読んでいた直哉さんに声をかける。
(私のことを抱いて移動できるなんてすごい筋力……)
 すると直哉さんは客間の方に移動して座椅子に座った。
「起きたか」
 直哉さんは眼鏡をかけて本を読んでいた様子。これは完全にオフモード。スクエア型のシルバーリムの眼鏡をかけているとまたいつもと違った雰囲気でかっこいい。
「酔いは醒めたか?」
「はい、もう大丈夫です。ご心配おかけしました」
「水、飲んで」
 直哉さんがコップに水を入れて持ってきてくれたので、それを飲んだ。
 はあ、と一息つくと、直哉さんは私の隣に座る。
 肩と肩が触れてしまうほどの距離に直哉さんがいる。私の身体が緊張で硬くなっているのはきっと気づかれている。
「風呂入るか」
「そうですね。そろそろ時間も時間ですしね。お待たせしてしまってすみません。直哉さんからお先にどうぞ」
 当然のことだ。先に入ってもらっても良かったのに、わざわざ私のことを待っていたようだったし。
 私は直哉さんに先に入ってもらうように促した。
「だめだ。一緒に入るぞ」
「はっ、えっ!?」
 今、なんと仰いましたか!?
 私は思わず大きな声を出してしまう。おかげさまですっかり酔いは醒めました。
「時間が経ったとはいえ、酔って寝た人を一人で風呂に入れるわけにはいかないよ」
「……んん、ごもっともです……」
 そう言われてしまうと反論できない。
 酒に酔って転倒し、打ちどころが悪くて緊急搬送されたという事例をいくつも知っているし、直哉さんだってそれを知っていて私にそう言ってくれているのだろう。
 いやしかし、まだ心の準備ができていない。そう簡単に私の全てをさらけだすのは難しい。
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