冷徹ドクターは初恋相手を離さない
「貼った!」
「傷病者から離れてください」
 するとようやくAEDによる心電図解析が始まり、一時中断することができた。周囲の人に離れるように声をかけて解析結果が出るまで待つ。
 その間に誰か変わってくれる人がいないか確認したい。
「誰か、変わってくれませんか……!」
 私はそう問いかけるが、周りにいる人たちは誰も前に出てはくれない。
「ショックが必要です」
 誰も交代してくれる人が名乗りでないままアナウンスが流れてしまったので、私は案内の通りショックを起こすスイッチを押す。
「はあっ、はっ、はあぁっ、あああっ!」
 体力の限界が近い。誰でもいいから助けて……。
 目の前に横たわる意識の戻らない男性を強く見つめながら祈りながらがむしゃらに救命処置を続ける。
「傷病者から離れてください」
 ここで二度目の心電図解析が入った。もう私は限界かもしれない。
 ふらふらとしてきて意識が遠のいてくるが、ここで倒れてしまったら誰がこの人の胸骨圧迫をするの?
 そう自分を鼓舞してなんとか意識を保とうとする。
「ショックが必要です」
 私はショックを実行するためにボタンを押し、すぐに胸骨圧迫を再開できるように再び手を組んで胸の上で構える。
 ピピーと電子音が鳴り、ショックが完了する。
 それでもまだ呼吸は再開しない。
「がんばれ……! いち、にっ、さん、しっ、ご……」
 周りの人達がザワザワしているのだけ聞こえてくる。
 次第に音が塞がってきている気がした。ああ、このままだと私、倒れてしまうかもしれない。
 そう思っていた。それでもまだ続けなくては。自分に与えられた使命だと思って、必死に身体を上下させる。
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