向日葵の園
背後。

それもピタリと体と体が重なるような位置で
私の耳元に囁く、憂さん。

「ゆ…」

「どうしたの。そんなに驚いて。仲良くやってたつもりだったのにバケモノでも見たような顔しちゃってさ。ショックだなぁ」

化け物…?

それはそうでしょう?

一体…なんなの、″コレ″は…。

言いたいことは山ほどあるのに
言葉も声も出てこない。

エサの供給を待つ金魚みたいにパクパクと口を動かすだけで精一杯。

「なんで…」

「なんでって?」

「ここに」

「ヒマワリちゃんさぁ。俺は確かにこの向日葵の大群をきみに見せてあげたかった。喜んでほしかったからね。でも俺が思っていたよりもきみはずっと好奇心が旺盛だったみたいだ」

「そんなこと…」

「人間関係だってそうだろう?この人と仲良くなりたい。自分を知ってほしい。でも踏み込まれ過ぎると途端に息苦しくなる。胸焼けがしてくる。何事も″ほどほど″が丁度いいんだよ。だから俺は警告のつもりでヒマワリちゃんが何度もここへ踏み込むたびにわざとみたいにきみの前に現れてあげていたのに」

「今は…いつから居たんですか」

「ずっと」

「ずっと?」

「必ず来ると思ってたからね。ヒマワリちゃんがきちんと自分のベッドルームに戻った時からずっと。夜の空を見上げてきみがやってくるのを待っていたら朝になっちゃったよ。でもこのほうがいいよね。向日葵には月より太陽のほうが似合うんだから」

「なんで私がここに来るって…ていうか都のベッドルームに行ったこと知ってたんですか」

「うん、盗聴してたから。都くんのベッドルームを」
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