向日葵の園

恋に堕ちた愚者

「きみの足だけではもうどこにも行けやしないってこと、忘れないでね」

憂さんは再び銃を取り出して
その銃口を一瞬だけ私のこめかみに触れさせた。

この感触を、冷たさを忘れるなっていうことだろうか。

橋は落とされた。
ヘリの要請なんてしてくれない。

このままみんな一緒に死んでしまうか、
ただ一人生贄を差し出して、
裏切りを一生心臓に刻んでどちらか一人と逃げ出すか。

あぁ。
私は何がしたかったんだっけ。

妬みも僻みも忘れて綴と本当の親友に戻りたかった?

友達なんてこれからいくらでも作ればいいんだから
大好きな都との恋を成就させたかった?

もう元には戻せないお姉ちゃんと
もっとちゃんと話をしておけばよかった?

お姉ちゃんを失ってしまったことが重くのしかかっているのに
目の前にぶら下げられた、今も確かに在る命が、
悲しむ時間さえ与えてくれない。

あの悪魔さえ倒すことができれば…。

憂さんに握らされた注射器がポケットの中で指先に触れて心臓が揺れる。

全部夢であれとどれだけ願っても
これは悪夢なんかじゃない。

現実なんだ。
私が選ばなきゃ…
私が…どちらかの大切な命を殺すんだ…。
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