向日葵の園
憂さんが白衣のポケットから注射器を取り出して
さっき地下室で「何者にも成れない、愚者の薬」だと見せられた紫色の液体を、
流れるような手捌きで綴の首から注入した。

くりんって白目を剥いた綴は、何百歳もの老婆になったみたいな皺がれた声で、言葉にならない何かを絞り出している。
首から、指先、つま先と順番にミシミシと音を立てて、
ひび割れ、避けて、髪の毛もちりぢりになっていく。
血液は一滴もこぼれない。

ぽろぽろ、ぽろぽろと無数の向日葵の種が溢れ出す。

「都くんに打ったのも同じ薬だよ。彼には少しずつね。植物が育ってゆくのと同じ速度で経過観察するのも面白いかなって思ったんだけど。ここまで絶望しちゃったらもう意味ないね。彼女は完全に生への執着を手放しちゃったからね。即効性のある物を試させてもらったよ。うん、バッチリだね。じゃあ、ヒマワリちゃん、行こっか」

「行くって…どこに…」

私への回答を疎かにしたまま、
憂さんは一瞬で都の額を撃ち抜いた。

ヒュッと何かが抜けていくみたいな声をあげたっきり、
白い壁、カーテンに真っ赤な血液を撒き散らして、
都の体は抜け殻みたいにグッタリとしなだれた。
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