向日葵の園
グッと強く押したボタン。
ゴウンッ、と大きく音を立てて振動する銀色の鉄の箱。

一分も、二分も経っていないと思う。
すぐに停止した箱のハンドルを憂さんがもう一度回す。

二人分の体でぎゅうぎゅうだったはずの中身は
質量を十分の一くらいに減らしている。

二人の体はどこにもない。

都の中にまだ残っていた血液がどす黒くこびり付いた鉄の壁と、
数えきれないくらいの大量の向日葵の種。

種に埋もれるようにして僅かに散乱する髪の毛、骨の破片、皮膚の一部。

蹲って、嘔吐。
今朝から何も食べていない私の胃からは
ほとんど胃液しか出てこなかった。

「人間の手で収穫するのは大変だからね。こうするのが早いんだ」

種になってしまった。

咲き誇る花にもなれなかった。

種に。

「種は素晴らしいよ。ここから新しい命が芽生えていくんだから。それにこんなに沢山のね」

「鬼…鬼…あんたなんか…」

「他人の消失に悲しんでる場合じゃないよ、ヒマワリちゃん」

「え…」

ピタリと体を寄せて、私を見下ろす憂さんの醒めた目と、上がる口角。
催眠術をかけられてしまったみたいに、体を動かせない。
< 99 / 103 >

この作品をシェア

pagetop