ラスボスの夫に殺される悪役令嬢として転生したので、生き残ってみせる!と意気込んでいたらなぜか夫がデレ始めて戸惑っています

8 真実

「……なるほど、君はキャロライン本人だが頭を打って転生前の記憶が蘇り、ここがその転生前に読んでいた小説の世界だった、と。転生前の名前がユキというわけか」
「はい、そうです」
「ユキ……」

 クロークは顎に手を添えてしっかりと噛み締めるように呟いた。今の自分はキャロラインなのに、クロークに転生前の名前を呼ばれて思わず胸が高鳴る。

「それで、俺に殺されないようにするために、色々と策を練っていたと」
「自分が死なないためでもありますが、クローク様が死なないためでもあります。私は、クローク様にも死んでほしくありません」
「なぜ?俺が死んでしまった方が君にとってはいいことじゃないのか。たとえ一度死を回避できたとしてもまたいつ殺されるかわからないのに」

 クロークのオッドアイが真っ直ぐキャロラインを射抜いた。

「それは……そう言われればそうかもしれません。ですが、私は小説を読んでいた時、クローク様にも明るい未来があったのなら、と思っていました。こうしてキャロラインとしてクローク様のそばにいるのなら、クローク様にも生き延びて、明るい幸せな未来を生きてほしい」

 キャロラインの言葉を聞いて、クロークは一瞬目を見開いたがすぐに真顔になり視線をそらす。

「君は随分とお人好しのようだな。大体の話はわかった。だが、ここが小説の世界だということを信じろと言われても信じるわけにはいかない。俺はこうして生きている。生まれた時から今まで、苦渋をなめて生きてきたようなものだ。ここが小説の世界だというのなら、俺をこんな目に合わせているその作者とやらを今すぐにでも殺してやりたいくらいだ」

 地を這うような低い声でそう言うクロークのあまりの気迫に、キャロラインは背筋がゾッとする。

「そうだ、もう一つ聞きたいことがあった」
「……なんでしょうか」
「推し、というのは?」

 その言葉に、キャロラインは心臓が跳ね上がった。

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