野いちご源氏物語 〇八 花宴(はなのえん)
 さて、朧月(おぼろづき)(おうぎ)姫君(ひめぎみ)は、右大臣(うだいじん)の六の君でいらっしゃった。源氏の君がご心配なさっていたとおり、もうすぐ東宮(とうぐう)への入内(じゅだい)が予定されている。この姫君は朧月夜(おぼろづきよ)(きみ)とお呼びいたしましょう。
 朧月夜の君はあの夜のことを思い出してお苦しみだった。一方、源氏の君は、右大臣(うだいじん)婿(むこ)になることをためらっていらっしゃる。弘徽殿(こきでん)女御(にょうご)をはじめ、右大臣家は源氏の君をよく思われていない。
 いよいよ姫君の入内が近づいたころ、右大臣(うだいじん)(てい)で藤の(うたげ)が開かれた。皇族や貴族たちがたくさんお集まりになる。花(ざか)りは過ぎたのに二本の桜の木が(おく)れて咲いていて風情(ふぜい)があった。新築の御殿(ごてん)は、弘徽殿(こきでん)女御(にょうご)がお生みになった内親王(ないしんのう)たちのために(みが)きたてられていた。派手好きな右大臣らしい、現代的なもてなしの準備がしてある。

 源氏の君もこの宴に招待(しょうたい)されたけれど、お越しになっていなかった。それではつまらないと、右大臣はご子息(しそく)をお迎えに出された。
 源氏の君は内裏(だいり)においでだったので、ご子息は(みかど)(ちち)大臣(だいじん)からの伝言をお伝えになる。
「我が家の藤は見事でございますよ。他の家にはない美しさだからこそあなた様をお招きいたしましたのに」
「かなりの自信があるようだ」
 帝はお笑いになった。
「こうして迎えまで()()しているのだから、早く行ってあげなさい。右大臣家は弘徽殿の女御の実家だから、そなたの異母妹(いもうと)(みや)たちを育てている。そなたを他人とは思っていないのだろう」
 源氏の君は着替えをして、日が暮れきるころにやっとお越しになった。他の参加者たちは右大臣へ敬意を示して、参内するときのかしこまった格好をなさっている。しかし源氏の君は略式(りゃくしき)の、しかし最高に美しい着物をお召しになっていた。賓客(ひんきゃく)として優雅に入っていらっしゃるご様子が(とうと)い。藤の花はすっかりかすんでしまった。
 音楽が美しく演奏される。夜が少し()けていく。源氏の君は()いすぎたふりで、そっと席をお立ちになった。
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