野いちご源氏物語 〇八 花宴(はなのえん)
源氏(げんじ)(きみ)(おうぎ)を交換した姫君(ひめぎみ)は、右大臣(うだいじん)様の六番目の姫君でいらっしゃった。
つまり、再来月には東宮(とうぐう)様とご結婚なさる予定の方。
朧月夜(おぼろづきよ)ほど美しいものはない」とおっしゃっているお声を源氏の君がお聞きになったところから始まったおふたりだから、この姫君は「朧月夜(おぼろづきよ)(きみ)」とお呼びしましょうか。

朧月夜の君は、あの夜のことを思い出して切なく(なげ)いておられた。
源氏の君はどうかというと、右大臣(うだいじん)()婿君(むこぎみ)になることはためらっていらっしゃる。
弘徽殿(こきでん)女御(にょうご)様がご自分をひどく嫌っておられるのですもの。
その妹君(いもうとぎみ)を妻にしたら、何かと面倒なことになりそうじゃない?
それに、右大臣様は左大臣(さだいじん)様と政治的に対立なさることが多いのよね。
源氏の君はすでに左大臣(さだいじん)()の婿君でいらっしゃるから、ここであえて右大臣家に近づくのも危険よ。
そんなわけで、源氏の君は積極的に姫君を探そうとなさるわけにはいかなかった。

いよいよご結婚が近づいたころ、右大臣(うだいじん)(てい)で藤の(うたげ)が開かれたわ。
皇族や貴族の方たちもたくさんお集まりになってにぎやかなの。
右大臣様は最近お屋敷を新築なさった。
現代風で派手な右大臣様のご性格そのまま、華やかなお屋敷よ。
源氏の君も宴にご招待されたのだけれど、お越しになっていなかった。
<源氏の君がいらっしゃらないのでは、宴は成功とは言えない>
と右大臣様はお思いになって、ご子息(しそく)をお迎えに出されたわ。

源氏の君は内裏(だいり)にいらっしゃった。
右大臣様のご子息が伝言をお伝えになる。
「我が家の藤は見事でございますよ。他のところにはない美しさだと自信をもっておりますからこそ、あなた様をご招待いたしましたのに」
(みかど)もお聞きになって、
「かなりの自信があるようだ」
とお笑いになる。
「こうして迎えまで寄こしているのだから、早く行ってやりなさい。右大臣家は弘徽殿の女御の実家。腹違(はらちが)いとはいえそなたの妹たちを育てている。そなたを他人とは思っていないのだろう」

帝がそうお命じになったから、源氏の君はお着替えをなさって、宴会の途中からご出席になったわ。
他の方たちは右大臣様に敬意を示して、内裏に上がるときの格好をなさっている。
そんなところへ、源氏の君は略式(りゃくしき)の、とはいえ最高に美しいお着物でいらっしゃったの。
(とも)を連れて優雅に入っていらっしゃるご様子は、いかにも皇子らしい堂々としたお姿だったわ。
藤の花もさぞや驚いたでしょうね。

音楽が美しく演奏される。
夜が更けていく。
源氏の君は酔いすぎたふりをなさって、こっそりと席をお立ちになった。
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