野いちご源氏物語 〇八 花宴(はなのえん)
 屋敷の一番大きな御殿(ごてん)に内親王(ないしんのう)たちはお住まいになっている。源氏(げんじ)の君(きみ)はその濡(ぬ)れ縁(えん)に上がって、くつろいでお座りになった。
 藤の花が咲いている方の窓を開けて、女房(にょうぼう)たちが縁側(えんがわ)に並んでいるらしい。簾(すだれ)の下からわざと出した着物の袖(そで)が見える。内裏(だいり)の特別な行事のときにだけふさわしいことなのに、調子に乗っていて品がない。
<藤壺(ふじつぼ)の女房たちならこんなことはしないだろう>
 ここでもまた弘徽殿の女御と藤壺の中宮(ちゅうぐう)をお比べになる。
「ずいぶんお酒を飲まされましてね、恐れ多いけれどこちらで休ませていただけませんか」
 簾をかぶるようにして上半身をお入れになった。
「まぁ、嫌ですわ。図々しいことをなさるご身分ではいらっしゃいませんのに」
 女房は驚いて言う。内親王にお仕えしているにしては重々しさが足りないけれど、かといって並みの女房でもない。上品で美しい雰囲気(ふんいき)があった。

 部屋から強いお香(こう)の香りがする。女房たちは着物の音をわざと立てるようにして動く。奥ゆかしさのない現代的なお暮らしのようで、縁側に出ているのは女房だけではないらしい。内親王たちや弘徽殿の女御の妹君(いもうとぎみ)たちまで、おそらく縁側に並んでいらっしゃる。
<あの人もきっといるはずだ>
 源氏の君は濡れ縁に戻ると、
「先日、人に扇(おうぎ)をとられてしまい大変な目に遭(あ)ったのです」
 とおどけておっしゃった。
「あら、その有名な歌にあるのは、扇ではなく帯でございましょう」
 何も知らない女房は、変な冗談(じょうだん)だと思ってあしらう。
 そのなかで、そっとため息を漏(も)らした人がいらっしゃった。源氏の君は簾の下から手をお取りになる。
「月のない夜なので暗くて迷っています。あのときのあなたでしょうか」
 姫君は我慢(がまん)できずにお答えになる。
「本気でお探しなら暗くても迷われないはず」
 まさに朧月夜(おぼろづきよ)の君(きみ)のお声だった。源氏の君はうれしくてたまらない。来月には東宮(とうぐう)へ入内なさる姫君だというのに。
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