崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
「弄んでねぇって」
「もう知らない」
 フンッと彼から顔を逸らした私がソファにドカッと座り直して拗ねると、そんな私の前にひらりと一枚の紙が差し出される。
 それは紛れもない婚姻届だった。
 
「本心だっつの」
「え」
「で、どっちが弄んでるって?」
 そう言った彼の顔からはもうどこか腹立たしいニマニマは消え、慈愛の笑顔を浮かべている。
 絶対自分の顔がイイことを理解してやっているやつだ。
(そうわかってるけど)

「……バカ」
「よし、じゃあ午後の予定は決まったな。その後はなんか映画でも観に行くか?」
「あっ! だったら私、気になってるアクションものがあるんだよね」
「みのり、そういうドハデなやつ好きだよな」
「高尚もでしょ」
「いや、俺はミステリーも好きだ」
「ハイハイ」

 特別な記念日でもなんでもない、ただ休みが合っただけの日。
 それでもふたり一緒なら、どんな日だって特別というやつなのだろう。
(ま、記念日にこだわるような人だったら怒ったと思うんだけど)
 でもこの緩さこそが私たちらしい。
 こんな日常を、これからも彼と過ごしたいから。

 どうやら今日というなんでもないこの日が、私たちの特別な記念日になるらしい。
 そんな新たな門出に、私の心は相変わらず躍っていたのだった。
< 161 / 161 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:13

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

幽霊姫は止まれない!

総文字数/273,767

ファンタジー641ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
【2025.8中旬より週2回更新へ変更になります】 リンディ王国には四人の王子王女がおり、それぞれに秀でた才を発揮していたが、自身の出産で王妃である母を亡くした末の姫・エーヴァファリンは、国から王妃を、兄姉たちからは母を奪ったことを気に病み、表には一切姿を現さず城の奥に引きこもってしまう。 また早産の影響か、王族ならば必ず持っているという〝魔力〟にも恵まれなかった彼女は体が弱く、公務にも出たことがなかった。 そのため誰も彼女の姿を見たことがないことから、いつしか『幽霊姫』と嘲笑からくるあだ名までつけられ、ひとり嘆き隠れるように生きる日々。 ──まぁ、表向きだけは。 「エヴァ様! 勝手に城を抜け出すのはおやめください!」 「あらオスキャル。護衛対象に撒かれるなんて護衛騎士失格よ?」 「撒かれてねぇぇーッ!」 これは、実は誰よりもお転婆で破天荒な素顔を持つ末の王女様と、彼女の護衛騎士になったばかりに振り回されていつも不憫な目にあってしまう初恋拗らせ護衛騎士のドタバタとした日常の軌跡である。
表紙を見る 表紙を閉じる
その日トレイシーは焦っていた。 なんと両親が借金を残し蒸発してしまったのである。 しかも使用人に払う給料まで持ち逃げをして! 「でも大丈夫、私には『はわわ』があるんだから!」 ──はわわとは、すべてを解決する魔法の呪文なのである。 その呪文を唱えながら少しでも条件のいい令息と既成事実を作り、借金と使用人たちの給料だけでも稼いでやる! そんな決意をしたヒロインを見つめるのは……?
娼館の人気No.1はハジメテの夜を夢見てる

総文字数/146,900

ファンタジー308ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
娼館・ライッツの人気No.1であるアマリリス。 娼婦である彼女の最大の秘密は処女である事···! “べ、別に守りたくて守ってた訳じゃないのにぃ~ッッ!” そんな彼女の前に客として現れたのは、この国の“英雄”こと魔法騎士のシャルだった。 彼女の純潔が何故か守られていた理由を彼女自身の魔法だと気付いたシャルは、自分に魔法をかけてくれと頼んできて···?

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop