迎えにきた強面消防士は双子とママに溺愛がダダ漏れです
 ***

 答えが出ないまま、あっという間に時間は過ぎていった。二月中旬の空には重たい灰色の雲があり、今にも雨が降り出しそうである。

 十二時近くになり、売れ行き好調のバレンタインデーシーズンのために用意した新商品を追加でショウケースに並べていると、ひとりの女性客がやってきた。

「いらっしゃいませ」

 パートスタッフと共に声を掛けると、女性客はケーキではなく私をじっと見据える。強い眼差しにたじろいで、接客中にもかかわらず顔をこわばらせてしまった。

 それほどの威圧感があり、唾を飲む。

「小早川桃花さんはいらっしゃいますか?」

 脈絡なく飛び出した自分の名前に、心臓はさらに激しく鼓動する。

「私ですが……」

 言葉が続かない。だって、面識はないはずだ。

「突然すみません。私、山科奈緒(やましななお)といいます。橙吾さんの件でお話ししたいことがあるのですが、お時間いただけないでしょうか」

 橙吾さんの、なんだっていうのか。要件がまったく想像できなくて困惑する。しかし私用で店先に居座られるのは他客の迷惑になるので、迅速な対応をするしかない。
< 100 / 244 >

この作品をシェア

pagetop