幽霊姫は止まれない!
(ハッ、しまった。ポーカーフェイスが行方不明だ)
 想定外の彼の言葉に反射的に返答し、冷や汗が滲む。

(これが社交界の戦いってやつか)
 相手の姑息な口上に乗りペースを握られては大変だ。冷静に、そして迅速に精神を立て直さなくては。

 「でも、いくらフラれて悲しいからって自分を慕うレディを誰かの代わりにするなんてよくないよ」
「いや、フラれてないし告白してもないです」
「告白してない、ってことはいつか告白するってことなの?」
「いやっ、それはその! というか、そもそも代わりって……」
(まさか気付いてないのか? こんなにバレバレなのに? ここにはポンのコツしかいないのか!?)

 だが彼がエヴァ様の正体に気付いていないならば話は変わってくる。
 ここはあくまでも『エヴァ様はただの護衛対象だ』と印象付け『彼女の扮するエヴァリンは俺の恋人である』という主張の元誰も近付けさせなければいい。
 王族である彼女自身は過保護な陛下と過保護な殿下たちが目を光らせているので、今回のこの期間ミック公爵令息を含めた不埒な輩から守り切ればいいだけだ。

 そう考え直した俺は、落ち着くために深呼吸をひとつ。
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