幽霊姫は止まれない!
 その場を仕切っている騎士がそう声をかけると、友人の令嬢たちが色めき立ったのでその彼が目当てなのだと知る。
 それと同時に私の差し入れをたまたま受け取った騎士は特に騒がれることもなく、その声をかけた騎士の近くに座りサンドイッチの乾燥防止にとかけてあったハンカチを外し、にこりと笑った。

(私には笑顔なんて向けなかったのに)
 サンドイッチには向けるその笑顔に腹立たしさを覚える。無機物に負けた気になった私は、その日はただただ悔しいと思っただけだった。

 その翌日も誘われた私は、正直連日なんて面倒だな、なんて思いつつ彼女の兄は王城に務めていることを思い出し下心百パーセントで同行することに決めた。王城に務める令息へ繋がる大事な伝手だ。

「本日も差し入れをお持ちされますか?」
 そうメイドに聞かれ、別にいらないと言おうとした口を慌てて閉じてただ頷く。
(あの騎士が今日も笑顔になるのか見てやるわ)
 それはサンドイッチに負けたという悔しさからくるただの思いつきだった。
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