幽霊姫は止まれない!
 けれどどれを見ても彼は笑わなかった。常に一定。少しぶっきらぼうなその姿しかラインナップがないのである。

「どれなら満足するのよ! 高いものも、珍しいものも。何にも反応しないじゃない!」
 毎日苛立ち、毎日悔しさを滲ませながら帰宅した。
 そしてもうレパートリーがなくなった私は、結局最初に差し入れをした『たまごサンド』を持って行った。

 原点回帰、なんて言えば聞こえはいいが、実際はただのネタ切れである。でも。

「あ。ははっ、たまごサンドだ」
(えっ)
 すっかり私から差し入れを受け取るのが定番になっていた彼が、私から受け取った瞬間にそう言って笑ったのだ。
 驚いて渡したバスケットへと視線を向けると、少しだけ被せていたハンカチがズレて中のサンドイッチが見えていた。そしてその具に彼が反応したのである。
「いつもありがとうございます」
「い、いいえ」

 中を先に知ったからか、サンドイッチへ向けられていた笑顔のまま私にもお礼を言う。
 それはたまごサンドが作り出した笑顔だったけれど、まるで私に笑いかけてくれたように感じ心臓が早鐘を打っていた。

「良かったわね、イェッタ」
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