幽霊姫は止まれない!
 隣国で名乗ったエヴァリンは女性名なので少しもじり『ヴァル』と名乗った私だが、オスキャルは男性から男性。
 あまり呼び慣れた名前から遠い偽名にしてしまうと、うっかり呼び間違えた時に弁解が苦しくなるので、ある程度本名に近い方がいいのだが、と自身の顎に手をあてて考える。

「キャルキャルはダメなのよね?」
「だからそれ、怒れる文鳥ですかって前聞きましたよね? しかも元は恋人へのあだ名っていう体で──」
「ほう。誰が誰の恋人か説明して貰おうか、オスキャル・スワルドン」
「ひえっ、王太子殿下!?」
「あら! お兄様っ」
「迎えに来たよ、エヴァ……じゃなくてヴァル。その姿もとっても可愛いな」

 護衛を迎えに来ちゃダメじゃない、なんて文句を言いながら兄の元へと駆け寄ると、にこりと微笑んだ兄が折角取り付けた髪を乱さないように気をつけながらそっと撫でた。
 相変わらず私の兄は穏やかで紳士的、そして甘いのである。

「可愛いじゃなくて格好いいと言ってくれなくちゃ困るわ!」
「どんな姿でも僕の可愛い妹なんだから仕方ないだろう」
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