幽霊姫は止まれない!
 その感情は、いつか必ずするであろう政略結婚の相手にこそ感じ、そして知るべきものだから。
 
(この廊下も、わざわざ煉瓦を積み上げて街路のようになっているのね)
 ここまで細かく作り込んでいる、つまりはお金がかかっているということだ。どうやら想像以上に儲けているらしいが、先ほど見た感じだとそこまで店内に客は多くなかった。
 単純に混みだす時間がまだなのか、それとも。
(それだけ定期的に大金を落とす常連客がいるってことかもしれないわ)

 そんなことを考えながら歩いた先、突き当りの奥から二番目の扉の前にふたりで立つ。

「ヴァル様、念の為俺が開けますので」
 ここは娼館。中から暗殺者が飛び出してくる可能性は限りなく低いとは思うが、相手は未確認聖女だ。護衛騎士である彼の言葉に素直に頷き、オスキャルの後ろに下がった。

 この中に預言者を自称する聖女がいる。
 私はごくりと喉を鳴らし、いざ対面の時を待つ。そして扉が開かれた。その中に、いたのは──

「いらっしゃぁい」
「ッ」
 バタン! と開けた扉を間髪入れずにオスキャルが閉める。
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