幽霊姫は止まれない!
 とは言っても、私たちの正体を知っているのは兄との部下である一部の近衛騎士、そして姉たちくらいで、当然聖女本人は私たちの正体なんて知らない。

 だからだろうか。突然あまり顔なじみのない騎士から話しかけられたからか、僅かにビクリと肩を跳ねさせた聖女だったが、すぐに笑顔で挨拶を返してくれる。
 その表情に警戒は浮かんでいない。

(私たちがこの間つけていた騎士だってわかってないのかしら)

 もし本当に彼女が預言者の聖女であれば、私たちの正体に気付かないなんてことはあるのだろうか。それとも私が幽霊姫であり、聖女の正体を探る目的で近付いているのを預言で知っているからこそ、調べるなら調べろということなのかもしれない。

 だが、それならそれで都合がいい。自由に動く権利を与えてくれるならば、こちらも目的のために道化にでもなってみせると誓って、にこりと笑みを彼女に向けた。
 ここからが本領発揮である。

(ロマンチックを気取るにはどれだけキザなことでも照れるのはダメよ!)

 照れてしまってはすべてが台無しだ。その全てが嘘っぽく、そして一定層需要のある『照れ顔』を有効活用できないから。
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