幽霊姫は止まれない!
そしてマントを脱ぎ顔を露にした男性がそのテーブルを挟むようにして立ち、こちらへ視線を向けていた。
彼の耳は、細長い。
「驚かないんだな」
「えぇ。聖女が持っていた薬を調べた時に知ったから」
彼の質問に答えると、エルフこそ驚かずそのまま私から視線を動かす。
そんな彼の視線は、今は誰も座っていないひとつの椅子へと向かっていた。
「彼女は、人間だった」
「え……」
「私とは寿命が違う。いつか彼女を看取る日がくることはお互いにわかっていた。だがこんなに、こんなに早い別れじゃないはずだったんだ」
「そう、なの」
ぽつりぽつりと紡がれた言葉に上手く声がでない。最期の瞬間まで側にいると誓った相手を突然失うその恐怖と絶望はどれほどのものだろう。
「あの草の名前を知っているか」
ポツリと投げられた質問に、「ブライト」と答える。ただ聞かれたまま花の名前を告げただけ。それなのに、何故かこの質問が重要なものの気がした。
「ブライト。そうだな。だが、我々の間では『モーンブルーム』と呼ばれている」
「モーン、ブルーム?」
その聞きなれない別名を繰り返す。我々の、というのは、エルフの中で使われている別名ということなのだろう。
「モーンブルーム。喪に咲く花、という意味だが、それと同時に生者には癒しを与えるという意味もある」
「生者に癒しを……」
彼の説明は、まさしく毒草でありながら薬でもあるブライトにぴったりの別名だった。そうやって、エルフたちの間では伝わって来ていた花だったのだと改めて実感させられる。
(そんな花を、私たちは……)
花粉に毒を含み、風でそれをまき散らす。だからこそ、野に咲くものは駆除すべきだという考えは、今も変わらない。
けれど──すべてを排除せず、もし誰かがその性質を見極め、正しく扱っていたなら。そうすれば彼の大切な人は、助かったのかもしれない。
そう思った瞬間、喉の奥に言葉にならない悔しさがせり上がった。
「お前たちが……、お前たちが! あの材料を焼き払わなければ! 彼女はまだ私のそばで笑っていたはずだったのに!」
「エヴァ様!」
そう怒鳴ったエルフが苛立ちをぶつけるように机の上のものを一気に薙ぎ払う。
彼の耳は、細長い。
「驚かないんだな」
「えぇ。聖女が持っていた薬を調べた時に知ったから」
彼の質問に答えると、エルフこそ驚かずそのまま私から視線を動かす。
そんな彼の視線は、今は誰も座っていないひとつの椅子へと向かっていた。
「彼女は、人間だった」
「え……」
「私とは寿命が違う。いつか彼女を看取る日がくることはお互いにわかっていた。だがこんなに、こんなに早い別れじゃないはずだったんだ」
「そう、なの」
ぽつりぽつりと紡がれた言葉に上手く声がでない。最期の瞬間まで側にいると誓った相手を突然失うその恐怖と絶望はどれほどのものだろう。
「あの草の名前を知っているか」
ポツリと投げられた質問に、「ブライト」と答える。ただ聞かれたまま花の名前を告げただけ。それなのに、何故かこの質問が重要なものの気がした。
「ブライト。そうだな。だが、我々の間では『モーンブルーム』と呼ばれている」
「モーン、ブルーム?」
その聞きなれない別名を繰り返す。我々の、というのは、エルフの中で使われている別名ということなのだろう。
「モーンブルーム。喪に咲く花、という意味だが、それと同時に生者には癒しを与えるという意味もある」
「生者に癒しを……」
彼の説明は、まさしく毒草でありながら薬でもあるブライトにぴったりの別名だった。そうやって、エルフたちの間では伝わって来ていた花だったのだと改めて実感させられる。
(そんな花を、私たちは……)
花粉に毒を含み、風でそれをまき散らす。だからこそ、野に咲くものは駆除すべきだという考えは、今も変わらない。
けれど──すべてを排除せず、もし誰かがその性質を見極め、正しく扱っていたなら。そうすれば彼の大切な人は、助かったのかもしれない。
そう思った瞬間、喉の奥に言葉にならない悔しさがせり上がった。
「お前たちが……、お前たちが! あの材料を焼き払わなければ! 彼女はまだ私のそばで笑っていたはずだったのに!」
「エヴァ様!」
そう怒鳴ったエルフが苛立ちをぶつけるように机の上のものを一気に薙ぎ払う。