幽霊姫は止まれない!
 がむしゃらに走り、逃げ出した先にあったのは、可愛らしい花が沢山咲いている庭園だった。
 薔薇が一本もなかったのは、棘が危険だからだろう。つまりそこは、棘があっても関係なく走り回る子供の出入りがある庭園。

 第一王子は十七歳、双子の姫君たちは十四歳。全員、わざわざ王妃殿下の好きだったと言われる薔薇の花を排除しなくてはならないような年齢ではない。

 ──つまりここは、現在九歳になる『幽霊姫』の庭園だ。

「不気味なとこ迷い込んじゃったな」
 庭園自体は明るく、可愛らしい。庭師が頑張って手入れしているのだろう。
 だが、そこが〝幽霊姫〟のものだと思うだけで幼い俺には不気味に映ったのだ。だってそうだろう? 子供なんだ、『幽霊』なんてついたら怖すぎる。
 それに何より、縁起が悪い。

 幽霊姫の話は知っていた。
 病弱で、母親の命を引き換えにして生まれた末姫。
 魔力も持たずに生まれたらしい彼女は誰からも見向きされず、ほぼ幽閉生活。

(それにしては、キレイな庭園だけど)
 使用人からは同情でもされているということなのかもしれない。
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