幽霊姫は止まれない!
 走り出したといっても当時九歳の足だ。三歳しか違わずとも、子供の三歳は大きい。
 俺は小走りというよりほぼ早歩きで彼女についていく。

(俺が何かしてたらどうするんだろ)
 何か目的があってここに来ていたのならば、完全に今その用事を中座する形になる。それを確認するために何をしているのかを聞いたはずの彼女が、俺の答えを聞かないことに内心呆れを滲ませた。
 だが、それと同時に『知らない女の子に無理やり相手をさせられたんだ』という言い訳ができたことに安堵もしていた。
 守りたいものもない俺はまだ、騎士になんかなりたくなかったのだ。

「どこに向かってるの」
「え? そんなの決めてないわよ。だってどこにでも行けるもの」
「あー。なるほど、怖いもの知らずなんだな」
 彼女から返ってきた答えに納得する。だから幽霊姫の庭園でもこんなに気兼ねなく走り回れるのだろう。

(幽霊姫って見た目も幽霊みたいなのかな)
 もし遭遇したらどうしよう。部屋から出ないって話だし、大丈夫だよね?
 俺の中に僅かに浮かぶその不安は、相手が王族だからではなく、完全に〝ユウレイコワイ〟の感情だ。
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